辺境異聞 10
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席のオードブル。次は用意してきたメインディッシュを賞味してくれ」
木箱の中に用意してきた肉塊を切り分け、先ほどとは別のソースを塗って短冊焼きにした。
「ぬぅ……、牛か、豚か、羊か……。わからない。これは、なんの肉だ?」
肉の焼ける匂いに鼻をひくつかせたドラゴンが不思議そうに訊く。竜族の鼻でも判別がつかない未知の食材に興味津々だ。
「いくつかの肉がまざっている。だが、それを言ってはつまらない。ゆっくりと、味わって。自分の舌であててみろ」
「ようし……ガモッ、ガプ…ギュウウウ……ナポ、モギュ、モギュ、モニュモニュ……こ、これはいったいなんだッ!?」
甘い香りがたちまち口いっぱいに広がる。これはただの牛肉ではない。
しかも噛むたびにちがう味がする。脂身のやわらかさ、さくさくと口当たりのいい甘さ、様々な味が入り乱れて変幻自在。曲芸士が様々な技を次々に繰り出すようで予測がつかない。
「わからん! これはなんだ!? なんなのだ、教えよ!」
「ひとつは子羊の尻の肉、ひとつは子豚の顔と耳、ひとつは子牛の腎臓、そして鹿の肉に兎を混ぜたもの。牛、豚、羊、鹿、兎。肉は五種類だが豚と羊が合わさればまた別の味、鹿と牛をいっしょに噛めばまた別の味。順番による変化を無視すれば二十五通りになる」
「おおう……」
「これが、料理だ。人の業だ」
「おおう!」
「俺からの貢ぎ物は気に入ってもらえたかな」
「至福……。不思議だ、美味いと思う、だが以上に腹が満たされる、まるで一〇〇〇頭の牛馬を食したかのような満腹感だ」
「料理とは人類という種が持つ固有魔術に等しい。ただ獲物を狩って貪るのでは、この味と満足感は得られない」
食事というのはたんなる栄養摂取の一過程ではない。
動植物を殺し、命を奪い、その魂を吸収する一種の儀式。呪術としての要素を持つ。
料理もまた同様である。
素材である動物や植物に細胞レベルで残留した気と、調理する人間から発散されて食べ物にうつる気を消化器官を通じて食事する側の魂に吸収させる呪術。
これこそが、料理。
料理とは、呪の一種なのだ。
秋芳は、ドラゴンに呪をかけた。
「それにこのソース。これは先ほどのものとはべつのソースだな」
「オリーブオイルにエシャロットとニンニクをすりおろして作った。平凡だが、風味は限りなく豊かだ」
「料理とは、奥が深い……」
「人里を襲うのを止めると約束するなら、お礼にこのような料理を一年に一度捧げるようこの辺りの、ウォルトン地方の人間たちに話をつけよう」
「一年に一度か」
「そうだ。永遠にも等しい長い寿命を持つ竜族にとってはたいした間ではないだろう。先ほどの料理で一〇〇〇の牛馬を食べたに等しいと言ったじゃないか、年に一度くらいの食事が、ちょうど
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