辺境異聞 10
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ぐ前まで迫っている。
秋芳を殺す気があるのなら息吹や呪文を唱えずとも、ひと噛みで終わるだろう。
(なるほど、たしかに闇竜は貪欲だ。餌に食いついてきた)
秋芳は動じない。胸を張って宣言した。
「美味いものを食わせてやる」
大地に穿たれた大穴は即席の鍋となり、中に注がれた熱湯がぐつぐつと煮立っていた。
秋芳はそこにジャイアント・センティピードを放り込む。
「こうすると体内の毒がみんな吐き出されるんだ。この湯は毒でいっぱいだから飲むなよ。不味いからな」
さらに大ムカデの頭を切断。ムカデの毒素は頭部に集中しているので食用には適さない。
胴体の殻を切り落とし、中身を押し出した。身は白く透明で、海老の剥き身のようだった。
それを綺麗に洗って完全に毒を落とす。
真ん中部分の白く分厚い部分を串に刺してソースを塗る。
ソースは特製のものだ。
トマトをすり潰して液状にしたものに水、塩、胡椒、蜂蜜と混ぜて一緒に煮て作る。
ソースをかけたらジャガイモ、ニンジン、リンゴと一緒にパイ生地に包んで焼く。
残っているソースも焼きながら塗りかける。まんべんなく薄茶色になってきたらできあがりだ。
これらの食材や調味料は【アポート】で取り寄せた物だ。
あらかじめ転送用の呪印を描いた木箱に必要な物を詰めてある。
秋芳は最初からドラゴンに馳走するつもりだったのだ。
今でこそ霊災に対しては直接的な呪術をもちいて修祓する方法が一般的だが、昔はそうではなかった。
西洋のエクソシストのように神の名を挙げて高圧的に悪魔を追い払うのではなく、米や酒を供えてもてなし、なだめて、鎮めて帰ってもらう。
それこそが鬼を、あらゆる悪しきものを人の世から返す呪術であった。
人々の心に神仏に対する畏敬が、自然に対する感謝と畏怖。人知を超えた存在への理屈ではない信心が、真摯な『祈り』があった時代の呪術――。
「できたぞ、食べろ」
平たい岩の上にクッション大の特製パイがいくつもならべられている様子は、まるで巨人の食卓だ。
闇竜がそのうちのひとつを口にする。
「サクッ、サク…サク…モニュ…モグ…モニュ……モニュモニュ…………淡旨!」
秋芳も味見したが、さっぱりとしてほのかに甘味のある白身肉に特製のソースが絡み合い、見事な味に仕上がっていた。
「不味いはずの地虫がとろりと甘い。味気ないはずの野菜や果物も濃厚で美味。このような物を口にするのははじめてだ」
(良かった。ドラゴンの味覚も人間と大差ないみたいだ)
ライツ=ニッヒ作『神々の包丁』に載っていたセンティピード・パイのレシピを忠実に再現した料理はドラゴンの好みに合ったようだ。
「至福……」
「今のパイは即
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