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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
辺境異聞 10
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必要がある。神だろうがなんだろうが、バカにはバカと言ってやれ、殴られたら殴り返せ!」
「…………」
「納得できないか?」
「いいや、とっくの昔に納得済みさ」

 秋芳のいた世界、日本では呪術を習得するにあたり『宗教(信仰心)の排除』が徹底されていた。
 特定の思想や信仰に染まらないからこそ陰陽師は神道の祝詞も密教の真言も道教の呪文も唱え、その力を発揮することができた。
 全知全能の、創造主としての神など、いない。
 いても、たいした存在ではない。人が勝てる、あらがえる。その程度のものだと。
 信仰の否定。だが、これも呪だ。
 一種の信仰だ。
 どう転んでも人は信仰からは逃れられない。
 信じるものがなくては、人は強くなれない。

「人も神も鬼もおなじ――陰陽師のやり方で、修祓させてもらう」
「好きにしろ」





 そういうことになって、秋芳は今ここにいる。
 崖を、登りきった。
 開けた場所だ。
 山火事か、それともドラゴンの吐く息によって木々が焼かれてちょっとした広さの草原のようになっている場所だ。
 咆哮が聞こえた。
 険悪な響きがこもっていた。
 一瞬、こちらを見つけた竜の侵入者に対する誰何の声だと思ったが、そうではないようだ。
 咆哮のしたほうへと向かう。





 漆黒の竜が大ムカデと戦っていた。

「ジャイアント・センティピード!」

 ジャイアント・センティピード。
 その名の通り異常に成長した巨大なムカデで、その体長は一メトラを超える。無数の体節のある細長い身体には数十本もの足が並んでおり、それをくねらせて這い進む姿はおぞましい限りだ。
 深い森や密林、洞窟や廃墟などの薄暗く湿ったところを好み、フェジテの迷いの森や下水道にも生息している。
 その牙には運動神経をいちじるしく低下させる麻痺毒があり、狩猟民たちはジャイアント・センティ ピードから採取した毒を鏃に塗って使うほか、錬金術の材料にも使用される。
 だが、このジャイアント・センティピードは規格外のサイズだった。
 丸太ほどの太さと、それに見合った長大な胴を持っている。
 そいつが闇竜と死闘を繰り広げているのだ。
 大ムカデは鎌首をもたげると、巨体に似合わぬ俊敏さでドラゴンの体に巻きつき、人の胴など両断してしまいそうな大顎で食らいついた。
 二度、三度、四度と大きく顎を動かす。
 だが漆黒の鱗には傷ひとつつかない。
 竜が、吠えた。
 遠く離れているにもかかわらず、その声に圧倒されそうになる。
 竜の咆哮には聞いた者の魂を打ち砕く魔力があるという。それは吸血鬼の視線に込められた恐怖よりも強力だった。

「こいつは、こわいな」

 竜に巻きついていたジャイアント・センティピードの
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