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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邪願 1
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 夜風になびく薄の穂が、月の光を浴びて光り輝いている。涼しく澄んだ秋の夜風に吹かれ、薄の穂がこすれ合う音がさらさらと響きわたり、なんともいえない趣を出していた。
 秋の薄野腹はあたかも銀色のさざ波を浮かべた大海原のようだ。
 銀薄の海を一艘の舟がたゆたう。
 水の上に浮かんでいるのではない、呪力によって浮遊しているのだ。
 乗っているのは僧侶のように頭髪を剃った短身痩躯の青年と、金に近い亜麻色の髪をハーフアップにした少女。秋芳と京子だ。 
 ふたりはしばらくのあいだ無言で景色を堪能した。秋の美を凝縮したかのような絶景に声も出なかったのだ。

「音がきれい……」

 ややあって京子が口を開く。

「お月様に照らされて銀色に輝く薄もきれいだけど、風の音がとっても心地良いわ」

 ここは元・闇寺、聖蓮寺。
 宿坊に宿泊して写経や座禅、水垢離などの修行体験をして心身を清め、茶の湯や精進料理を提供するほか、敷地内で呪術をもちいたアクティビティもおこなっている。この浮遊舟もそのひとつで、少しでも呪術に対するアレルギーを緩和しようと、陰陽庁のお墨付きでこのような呪具の貸し出しもしている。
 けっこうなことだ、と秋芳は思う。
 国を治めるために必要なのは武力や金だけでなく、文化という見えざる力も大いにある。娯楽とは、すなわち文化だ。呪術を使ったレクリエーションが一般に浸透し、理解してもらえれば、おそろしいもの、こわいものといった印象が払拭されることだろう。
 そして実用性のみならず、おもしろいもの、楽しいもの、遊び、娯楽として受け入れてもらえるのが理想だ。
 秋芳は先日刀会の打ち上げでこの聖蓮寺を使ったのだが、折り悪く京子は来ることができなかった。そこで今日はふたりだけで楽しみに来たのだ。

「薄の海や月の光のうつろえば波の花にも秋は見えけり」
「名に高き二夜のほかも秋はただいつも磨ける月の色かな」

 詩心を刺激され、ついついそのような言葉が口から漏れる。

「これで紅葉もあればさらに良いんだがな、あいにくとカエデもイチョウもこのあたりにはほとんど生えてないそうだ。……林間に酒を煖めて紅葉を焼く、石上に詩を題して緑苔を掃う」

 林でかき集めた紅葉を焚いて燗をつけ、緑の苔をはらって石の上に詩を書きつける――漢詩に詠われる風雅な光景が心に浮かぶ。薄のむこうに燃えるような紅葉の幻を見た。
 じゅうぶんに景観を堪能したのち、どちらかもともなく持参した重箱を取り出す。

「おう、これはみごとな蒔絵箱じゃないか」
「でしょう、秋芳君の好きそうなのを選んだのよ」
「かすかに螺鈿も入れているな。うん、たしかに俺好みだ。俺はこういう小さくてキラキラしてるやつが好きだ」

 手に取ってしげしげと鑑賞する。
 うつろう四季
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