巻ノ百十四 島津忠恒その六
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「ではこれより」
「山に戻ります」
「そうさせて頂きます」
「酒があるが」
忠恒は帰ろうとする主従にそれを勧めた。
「どうか」
「いえ、それは」
「よいか」
「はい、それはです」
酒、それはというのだ。
「ここにまた来た時に」
「そうか」
「そうして頂けるでしょうか」
「わかった」
確かな声でだ、忠恒は幸村に答えた。
「ではその時が来ればな」
「その様に」
「しよう」
「それでは」
幸村は頷いてだ、そしてだった。
あらためて十勇士達と別れを告げて薩摩を後にした、薩摩を後にした彼等はすぐに九度山に戻った。
そして九度山に入ると昌幸の前に出たが。
その昌幸の顔を見てだ、幸村はほっとして言った。
「お元気そうで何よりです」
「今はな」
「まだ、ですか」
「死期は迫っておるが」
しかしとだ、昌幸は幸村に微笑んで話した。
「こうして生きておる。気もしっかりしておる」
「その様ですな」
「お主が帰って来るまではと思っていたが」
「まだですな」
「生きておる、一日でも長く生きて」
「そうしてですな」
幸村も応えた。
「やはり」
「次の戦で最後の働きをしたいが」
「それはですか」
「出来ぬであろうな」
自分で言うのだった。
「やはり」
「そうですか」
「今は無事でもじゃ」
「近いうちに」
「世を去る」
そうなるというのだ。
「間違いなくな」
「やはりそうですか」
「しかしわしは何とかじゃ」
「生きることをですか」
「その様に務める」
必ず、というのだった。
「最後の最後まで」
「それで今も」
「こうしてお主達の前におる」
九度山に帰って来てすぐに自分のところに挨拶に来た彼等の前に姿勢を正して座しているというのだ。
「ここにな」
「何よりです、やはり」
「生きてこそじゃな」
「父上がいつも仰っている通り」
真田の教えだ、まず何といっても生きること。それこそが第一でありそれからだというのである。
「ならですな」
「少しでも長く生きてみせるわ」
「わかり申した。では」
「何とかな。それで天下じゃな」
「何かありましたか」
自分達が肥後そして薩摩に行っている間にとだ、幸村は父に尋ねた。
「まさかと思いまするが」
「うむ、大久保家じゃな」
「何かよからぬ話がありますな」
幸村もその話は天下を巡っているうちに聞いている、その草木や獣、虫の声まで聴けるその耳で。
「切支丹がどうとか」
「それが実際にな」
「つながっておられた」
「しかも伊達家の話もある」
「伊達家ですか」
そう聞いてだ、幸村は察した。伊達家が関わっているとなるとだ。
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