巻ノ百十四 島津忠恒その五
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「召し抱えるが」
「いえ、それは」
「よいか」
「はい、それには及びませぬ」
笑って言うのだった。
「ご安心下さい」
「そうか、よいのか」
「このまま終わりたくはないですが」
「終わってもか」
「それも天命かと」
こう考えているというのだ。
「ですから」
「そうか、そこまで言うのならな」
「はい、九度山で終わるか」
「大坂で勝つか」
「それが適わねば」
「その時は来るがいい」
こうも告げたのだった。
「是非な」
「その様に」
「右大臣様は血筋が続く限りな」
「島津家がですか」
「約束通りじゃ」
これが返事だった。
「お護りする」
「そうですか」
「しかしな」
「はい、表立ってではですな」
「それは出来ぬ」
到底、というのだ。
「その時は右大臣様はじゃ」
「お亡くなりになられた」
「そうなってじゃ」
「薩摩に入られても」
「それは一介の浪人」
表向きはそうなっているというのだ。
「それに過ぎぬ」
「そうなりますな」
「無論わしも右大臣様についてはな」
「お亡くなりになられた」
「そう確信しておる」
そういうことになるというのだ。
「一介の浪人が暮らしておる」
「それだけですな」
「貴殿等もな」
連れて来る幸村達にも告げた。
「薩摩に来てもな」
「はい、既に死んでいる」
「そうなってもらう、召し抱えても」
「名は違う」
「そうなってもらう」
幸村自身にも言うのだった。
「それでよいな」
「はい」
幸村は忠恒に一言で答えた。
「願いが果たされるなら」
「そうなってもか」
「構いませぬ」
幸村は忠恒に厳かな声で答えるばかりだった。
「それは」
「誇りである名を捨ててもか」
「そうなろうとも」
「そこまで言うか、やはりそなた達は見事じゃ」
忠恒は幸村そして十勇士達の心を知ってだ、唸って言った。
「真の武士じゃ」
「そう言って頂けますか」
「忍んでそこまでのことをしようとはな」
「だからそう言って頂けますか」
「うむ、そなた達こそまことの武士」
忠恒はまた言った。
「その心確かに受け取った、だから死ぬでない」
「その時は」
「一人もな」
主従全てがというのだ。
「死ぬでない、そして薩摩に来るのじゃ」
「そしてそのうえで」
「願いを果たすのじゃ」
「その時が来れば待っておる」
忠恒の声が暖かかった、そこには確かなものがあった。
「必ず来るとな」
「それでは」
幸村も応える、そしてだった。
主従は忠恒とのやり取りを終えて静かに告げた。
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