巻ノ百十四 島津忠恒その四
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「だから言うが」
「はい、それは」
「島津家は幕府に従っておるが」
だがそれはというのだ。
「表のこと」
「左様ですか」
「島津は島津じゃ」
そうした考えだというのだ。
「幕府に心まで服してはおらぬ」
「そうですか」
「うむ、そして太閤様には敗れたが」
秀吉の九州攻めにだ、ここで四兄弟のうちの歳久と家久がこの戦の後それぞれ家の責を取って切腹か急死している。
「右大臣様に恨みはない」
「では」
「うむ、右大臣様が来られるなら」
この薩摩にというのだ。
「よい」
「それでは」
「しかし薩摩は動けぬ」
引き受ける、だがそれでもというのだ。
「疑われるつもりはないからな」
「だからですな」
「大坂で戦が起こってもな」
「加わらぬのですな」
「理由を付けて断る」
幕府からのそれを受けてもというのだ。
「そうする」
「そうですか」
「つまりじゃ、貴殿等が無事に右大臣様を薩摩までお連れしたならばじゃ」
「その時は」
「幕府の者は一度この国に入ってもな」
「二度とですな」
「出さぬ」
薩摩を出る前に消す、そうするというのだ。
「だからな」
「それでは」
「右大臣様は必ずお護りする」
「薩摩まで来られたら」
「その時は間違いなくじゃ」
こう約束した。
「だから安心せよ」
「わかり申した、では」
「薩摩までお連れしたならばじゃ」
「お願い申す」
「その時はな」
忠恒は確かにだった、幸村に約束をした。
「わしも島津家の主にして七十七万石を預かる身」
「その誇りで以て」
「約束する、我等は鎌倉の頃よりここにおった」
この薩摩そして大隅にというのだ。
「だからな」
「約束をされたからには」
「決して破らぬ」
それを見せた言葉だった。
「必ず」
「それでは」
「では時が来ればな」
「また、ですな」
「会おう、そして貴殿は」
「はい、これよりです」
幸村は忠恒に確かな顔で答えた。
「九度山に向かいまする」
「そうするか」
「そしてです」
「時が来るのを待つか」
「そうします、何もなければ」
「そのままか」
「九度山におります」
流されたまま隠棲するというのだ。
「このまま」
「そうか、しかしな」
「それでもですか」
「その時もじゃが」
幸村主従を見つつだ、忠恒は彼等にこんなことも言った。
「わしが幕府に話してな」
「そうしてですか」
「流罪を解いてもらうが」
「そしてですか」
「三千、いや五千石貴殿が望めば一万でもじゃ」
禄を出してというのだ。
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