第17話 反撃開始
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静を装いつつも、心の中で原野はいやな汗をかいていた。
「ご主人様がこれからいらっしゃる。くれぐれも粗相のないようにな。
貴様は平伏してお迎えしろ」
屋敷の中の、謁見室としては格の低い八畳間の和室に通された原野は、家令の斜め後ろで土下座のポーズだ。
主人が座る上座には毛氈が敷かれ、脇息がおかれている。
いったいどこのお殿様だ。と原野は心の中でだけ毒づく。
やがて、上座側のふすまが音もなく開き、立ったまま誰かが入室してきた。ふすまはその人物の背後で、再び音も立てずに閉まる。
上座に主人が座ったのを気配だけで察した家令が顔を上げた。
「仰せの通り、原野が参上いたしました」
「ふむ、貴様が下北タンクディストリビューションの原野か?」
思わず顔を上げて返答しようとする原野。
「顔を上げるでない!」
ここの「主人」は女性だったが、叱責する声は大の男をも萎縮させるだけの力を持っていた。
原野は思わずすくみ上がる。
「は、原野にございます」
平伏したまま、彼はやっとそれだけを口にした。
「契約の納期は本日だ。であるにも関わらず、なぜ届いたのは2両であるのか。
答えよ」
「茨城県立大洗女子学園に、試乗用として貸し出しております」
「ふっ、大洗か。近いな。
……明日中に持ってこい」
「え?」
「二度は言わぬ」
それだけ言うと、女主人は静かに立ち上がると、誰かが開いているのだろうふすまの向こうへ去って行った。
原野にとっては、TASを取り上げれば自分のクライアントから断罪され、断れば会社が危うくなるという、どちらの地獄が良いかというだけの選択肢を突きつけられ、内心だけで恐怖している。
ちょうどそのとき、家令の携帯が鳴る。
「は、お嬢様。はい、おりますです。はい……
……原野、当家のお世継ぎ様からだ。失礼のないようにな」
家令はつながったままの携帯を原野にわたした。
おそるおそる電話に出る原野。
『下北の原野だな』
これも音声変調装置付きの通話で、実際よりも低くトーンを落とした声が聞こえる。
『お前らは、戦車だけでなく「部材」も扱うのか?』
「──は、パーツ単体から販売、組み付けも行っておりますが」
『間の抜けた声を出すな。
まあいい、それなら見てもらいたいものがある。家令に代われ』
携帯を受け取った家令は、お世継ぎ様としばらく受け答えしていたが、もう一度携帯を原野に渡した。
『これからお前は、その家令について行き、我が家の部材倉庫まで行け。
電話は切らなくとも良い。そこでまた話すことがある』
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