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大洗女子 第64回全国大会に出場せず
第5話 秘匿通話
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かかっているときか、自分たちの将が敗亡必至であってもなおついていきたいと、兵が望んだときだけです。
 いまのあなたたちに、それがありますか?」

 まさに詰みだった。
 前回の勝利はまさに「廃校確実」という危機の中で角谷という政治家が勝利への条件を整え、名将みほにその手腕をこころおきなく振るわせたからあったようなものだ。
 そして兵としての角谷は、みずから身を投げ出して道を切り開いた。
 残った者たちも身を犠牲にしてその任を全うした。みほが勝利すると信じて。
 最後の一騎討ちも、運命の女神がこちらに天秤を方向けてくれたから勝ったような、実にきわどい勝利だった。
 自分たちが起こしたのはまさに「奇跡」だったのだと、優花里は思い知った。

「奇跡はお金では買えない。つまり、奇跡に援助することはできないのです」





 担当者の言ったことは、想定外のことではなかった。
 連盟が高校の戦車道授業を維持できるだけの補助金を支弁しているなら、20年前の大洗女子は戦車道から撤退していないだろう。
 それでも奇跡の優勝校ならあるいは、と思ってきたが、やはり無理だった。
 結局申請書をつき返された優花里は、悄然として事務棟の古風な廊下をとぼとぼと歩いている。
 だから前からやって来た人物に気がつかず、あやうく衝突しそうになった。

「おっと、危ない。
 ……おや、君は大洗女子の」

 優花里がぶつかりそうになった相手は、この場所で唯一の男性、連盟理事長だった。
 彼は普段の羽織袴姿ではなく、三つ揃いに山高帽の洋装だった。
 見るからにどこかに出かけて帰ってきたばかりのようだ。

「あ、あなたは。
 ……どうもすみませんでした」

 悄然とした様子の優花里は、それを言うのがやっとという様子で、黙ったまま理事長のわきをとおり抜けようとした。その優花里を理事長は呼び止めた。

「たしか秋山君だったね。
 悪いがいまから理事長室まで来てくれないかね」

 彼はなぜか優花里の名を知っていて、そして彼女に用があるという。

「実は用があるのは私ではないんだが、立ち話できることでもないんだ。
 時間は取らせないから、付いてきてもらえないかな?」

 連盟の補助をすげなく断られたショックで良く頭が回らないと言うこともあったが、優花里としては急いで大洗に帰る理由もなく、用事があるという人物もおそらくはそれなりの立場なのはわかるので、別に怪しむこともなく言われたとおり理事長室まで足を運ぶことにした。



「かけたまえ」

 理事長は入室した優花里に椅子を勧めると、上着の内ポケットから携帯電話を取りだして、彼女に手渡した。

「これは私の私用電話だが、これからこの電話に君あての通話がかかって来
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