【本当は、どうしたい】
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和感などすぐになくなって、思い切り雪遊びをした。
父上は俺の投げる柔らかい雪玉にわざわざ当たってくれるし、俺には避けやすいように雪玉を投げてきて、一緒になって笑ってくれる。
童心に帰るとは、この事だろうか。今の俺は幼い頃の姿なわけだし、童心も何も父上が遊び相手になってくれているのだから至極子供らしく振る舞える。──それが何より、嬉しくてたまらない。
雪まみれになりながら一緒に雪だるまも作った。
大きめの雪だるまは父上、それに寄り添うような小さめの雪だるまは俺に見立てて作った。
……俺はずっと、悪い夢を見ていただけかもしれない。
父上も、俺も死んでなんていないんだ。
日向の呪印も最初から刻まれてなんかいない。
自由……そう、父上と俺は自由なんだ、どこまでも。
こうしてずっと一緒に居られればいい、ただ、それだけで───
「……本当にそれでいいのか、ネジ」
「父上……?」
それまで楽しそうだった父上の表情が、曇った。
どこか、哀しそうだ。それでいて、微笑している。
──どうして、そんな顔するの。
まるで、あの時みたいな──
『ネジ、お前は生きろ。お前は一族の誰よりも日向の才に愛された男だ』
──・・・!
「ネジ……お前は、本当はどうしたい」
雪が音も無くひらひらと舞い降る中、父上は“おれ”と目線を合わせるように身を低めた。
「本当はどうしたいんだ、ネジ」
その声は、酷く優しかった。
やめてよ父上……思い出させないでよ……
おれは……俺は、本当は───
「自分自身に囚われるな。お前の心は、自由だ。決めるのは、自分だ。……だからこそ判っているだろう、“此処”にいるべきではないと」
・・・・・・────
「まだ……まだ、生きていたい…よ。みんなと……大切な仲間達と、一緒に。もっと……もっと、強くなりたいから」
熱いものが、頬に伝う。後から、後から、とめどなく溢れてくる。
「──それでいいんだ。今なら、まだ間に合う」
父上はまた、俺の頭にその大きく優しい手を置いた。
……その手が離れてゆく時に、確信した。
俺は……そう簡単には、死ねないのだと。
父上に、“お前は生きろ”と、言われているのだから。
『さあ、戻りなさいネジ。──お前の在るべき場所へ』
そう、まだまだ先があるはずだ。
それが、見えるまで……
《終》
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