辺境異聞 9
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るって」
セリカの脳裏に昔日の記憶がよみがえる。
(これ、セリカにあげる。けっこんゆびわ! またらいねん、おなじのかって、いっしよにはめる!)
「あの頃は小さくて素直でなぁ、ほんっと、可愛かったんだ」
「今の姿からは想像できないな」
「あーあ、子どもの頃はあんなに素直で可愛い男の子だったのに、今じゃあんなスレた男になっちゃって、……時の流れは残酷だな」
そのようにして祭りにも似た楽しげな雰囲気を堪能していると、浮かれ騒ぐ周囲になじまない、深刻な面持ちの一団がいることに気がついた。
身なりの良い初老の男を中心にして、なにやら相談事をしているのだが、彼らの口から頻繁にある単語が飛び交っている。
「ドラゴン」という言葉が。
秋芳とセリカは顔を見合わせた。つい先日ドラゴンに遭遇し、その威容を目撃したばかりなのだ。
「なにかおこまりですか」
「ええ、実は……」
身なりの良い初老の男は山の向こう一帯のウォルトン地方を治める郷紳のジャレイフといった。
郷紳というのは貴族ではないが先祖代々の広大な領地を持っている実力者で、貴族とともに上流階級を構成する一員だ。
彼の土地にあるいくつもの村がドラゴンに襲われ、甚大な被害を受けているのだが、救援を求めて帝都オルランドまで行こうにも、この場で足止めを余儀なくされている。
「あの黒い竜ときたら、三日と間を空けず襲ってきやがる。このままじゃ村中の牛が食い尽くされちまうよ!」
ジャレイフのお供の男たちはみな彼の治める村の住人で、ドラゴンの暴虐を目の当たりにしている。
彼らの話によればドラゴンはおもに牛や羊といった家畜を襲い、貪り喰っているという。
ウォルトン地方の主な収入源は牧畜で、これは死活問題だ。それに家畜を食べ尽くしたあと、こんどは人を餌と見なして襲ってくる可能性がある。
「一日でも早くオルランドへ向かいたいのだが、このありさまだ。今からでも引き返してレザリア王国に助けを求めてはという意見もあるのだが……」
「もう二日、早ければ一日待てば水は引く、それまで待てないのか!」
「その一日二日が惜しい。早馬を駆ってアルザーノに行ったほうが早い!」
「……という具合にみなの意見が割れていてな、難儀しているところだよ」
「先ほど黒い竜と言いましたが、ほかに特徴はありますか」
「そうだな、見た者の話では背筋に暗灰色の毛が生えていて、頭に大小六本の角が生えていて――」
秋芳たちが目撃した闇竜の特徴と一致する。
「この人たちの村を襲っている竜は、私らが見たグリフォンを食べていたやつだね」
「家畜を襲い、グリフォンまで貪るとは、聞きしに勝る貪欲ぶりだな。よっぽど腹が空くとみえる。だれだよ、ドラゴンは幻獣だから食事は
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