辺境異聞 9
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の胴に鷲の頭と前脚を持ち、翼を生やした異形の獣。
「グリフォン!」
鷲頭獅子と呼ばれる魔獣を狩ってきたのだ。
人を襲う魔獣ではあるが、その姿は雄々しく、家紋にしている騎士や貴族も多い。その嘴と爪には恐るべき破壊力があり、金属鎧でも板のように貫き、切り裂くという。馬を好んで餌にしているので、辺境の山道で馬車馬や旅の騎士が襲われたという話が数年に一度くらいは噂にのぼる。
書物によれば光る物を好んで集めるため、その巣には金銀宝石の類が多くころがっているとあるが、さだかではない。
魔術学院を晴れて卒業した第三階梯の魔術師であってもグリフォンと一対一で戦って簡単に勝てるとは思えない。そんな強力な魔獣であるグリフォンを獲物として屠った竜の闇色の鱗には傷ひとつついていなかった。
巣に持ち帰って、ゆっくり食べるのかと思って見上げていると、岩山の頂に舞い降りて、やにわに食らいついた。
グリフォンがひときわ激しく暴れて、大量の羽根が飛び散る。
だが、すぐに動かなくなった。
ぞぶり、ぞぶり、ぞぶり――。
そのような咀嚼音が聞こえてくるような気がしてくる。
「グリフォンて鷲の味なのかな、それともライオンの味がするのだろうか」
「さあねぇ、鷲も獅子も肉食で不味いだろうから、いずれにしても美味しくないと思うよ」
「せめて草食獣がまざっていれば美味い部位がありそうだが」
「ならキマイラの山羊の部分は食えるのかね」
弱肉強食という大自然の過酷な姿を目にした文明人ふたりが散文的な会話をしているうちに闇竜はグリフォンをぺろりとたいらげ、飛び去っていった。
腹がくちくなって巣に帰りひと休みするのか、新たな獲物を探しにゆくのか。
遠くにひときわ高く、険しくそびえ立つ山が見えるが、なんとなくそこが闇竜の住処のような気がした。
「食欲旺盛なようだが、成竜なのかな」
「いや、あの大きさからするとすでに老竜だろう」
「じいさんになっても食欲旺盛。なるほど、たしかに貪欲だ」
秋芳は気の変わった竜に餌だと見なされ、追ってこないうちに、馬車を走らせた。
森の中の道を進んでいると開けた場所に出た。ちょっとした広さの草原になっているそこかしこに馬が繋がれ、天幕が張られている。地面に布を敷いてなにやら商いをしている者もいる。
一見すると隊商の野営か、市座のようだ。
だがこのような辺鄙なところで市を開くなど、実に不可解だった。
幾人かに話を聞けば、この先にある川が大雨のため増水し、橋が沈んで通れないとのこと。
迂回しようにも橋のある場所はここから遠く、そこも沈下橋状態の可能性もあるうえ、野盗や魔獣の襲撃を恐れながら道なき道を進むのはリスクが大きい。
水かさが低くなるまで待っているうちに
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