辺境異聞 9
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を見るとつい……」
人知を越えた強大な力を持ち、万物の頂点に立つ最強の聖獣にして妖獣、幻獣にして魔獣。神獣とも謳われる存在を目の当たりにしてさすがの秋芳も驚きを禁じ得ない。
「このあたりは自然も多いいし、まだあんな竜が棲んでるんだねぇ」
「不忍池で狸を見かけたような軽い言いかただな」
「一〇〇年くらい前はフェジテ近郊でもよく竜を見かけたものだよ。湖には細長い胴の水竜が泳いでいたし、巨大な洞窟の奥には小山のような体躯の地竜が眠っていた。蒸気を吹き出す谷間には真っ赤な鱗の火竜が大きく避けた口から灼熱の炎を吐きあげていた……。今の竜、あの鱗の色から察するに闇竜だね」
「闇竜とはどんな竜なんだ?」
「知性を獲得する前の成竜まではブラックドラゴンとも呼ばれ、老竜まで成長するとダークドラゴンと呼ばれる。特徴は全身を覆う黒い鱗と、その貪欲さだ。竜という種族は総じて金銀財宝といったお宝を巣に溜め込む習性があるが、やつらは特にお宝を好んでかき集める。人にとって価値があるものはやつらにとっても価値があるのか、ときには絶世の美女や美少年といった、生きたお宝をかっさらうこともある。『ドラゴンにさらわれたお姫様』てのはおとぎ話なんかじゃない。また闇竜は暗黒神と関係があると言われ、暗黒魔術も行使できる」
「うわぁ〜、悪いモンスターそのものだな」
「だが邪悪というわけではない、気性の荒さや凶暴さでは火竜のほうが遥かに上だしな。――竜は幻獣ゆえ、その巨体の割には大量の食事を必要としないと言われ、なにも食べなくても生きてゆけると唱える学者さえいるが、空腹になると知性を失い凶暴になるとも言われる」
「どっちなんだよ、そりゃ」
「個体による差が大きいのさ。……また人を喰うことをおぼえた竜は人ばかりを食らうというが、食べるために人を襲うことはめったにない。聖エリサレス教会の連中は人の姿が神に似ているから畏怖しているのだ。などと主張しているが、どうだかな。私は単に人を恐れているだけだと思う」
「竜が人を恐れる?」
「そうだ。いくら竜が強いといっても重火器で武装した軍隊や高レベルの魔術師はそれ以上に強い。やつらはそのことを本能や経験で察している。だからあまりにヤンチャが過ぎると痛い目を見るから、直接人に手を出すような真似はしないんだろう」
「それに牛や豚にくらべたら人なんて骨と皮だけだし、俺たちのことは眼中になかったな。幸い腹は減ってなかったようだ」
「……いや、そういうわけでもないようだぞ」
大気を切り裂く咆哮をあげて、漆黒の竜が舞い戻ってきた。その手には哀れな獲物が闇竜の太く鋭い爪から逃れようと必死に暴れていた。
獲物は、大きな獣だった。
鹿ではない、熊ではない、猪でもない。
闇竜が捕えてきたのは獅子
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