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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
辺境異聞 8
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とばかりにルーマティーを淹れて振る舞う。
 淹れたての茶の放つまろやかな香気が食堂をただよう。

「……静かだな」
「この城の中で生きている人間は俺たちふたりだけ――て、最初からそうだったな。やつらを始末するのに剣を借りたぞ」

 秋芳が腰に帯びたエリエーテの真銀剣をセリカに返した。

「ウェンディに借りた魔剣も凄かったが、それもたいした業物だな」
「ああ、なにせ《剣の姫》エリエーテの佩剣だったからな」
「魔導大戦の英雄のひとりか」

 魔導大戦。
 二〇〇年前に外宇宙から侵略してきた邪神とその眷属らと人類の間で発生した戦い。
 人類がなすすべもなく蹂躙され、滅亡の淵へと追いやられた悪夢の如き死闘。

「たしか六英雄のひとりだったな」

 魔導大戦で活躍した六人の英雄。
 《灰燼の魔女》セリカ=アルフォネア。
 《剣の姫》エリエーテ=ヘイヴン。
 《聖賢》ロイド=ホルスタイン。
 《戦天使》イシェル=クロイス。
 《銀狼》サラス=シルヴァース。
 《鋼の聖騎士》ラザール=アスティール。
 邪神との激戦でセリカ以外は全員戦いの中で散っていった。

「あいつらだけじゃない、邪神どもに戦いを挑んだ《百の勇者》のうち、最後まで立って戦っていたのが私たち六人。……最後の最後まで、生き残ったのが私だ」
「ほう!」
「少し、昔の話をしてやるよ――」

 セリカの脳裏に二〇〇年前の情景がよみがえる。



 地平線の果てまでを、奇怪な軍勢が埋め尽くしている。
 数千、数万のその軍勢には、どれひとつとしておなじ姿をしたものはいない。
 ねじくれた角を生やしたもの。
 蝙蝠と白鳥の羽をともに持ったもの。
 百の目ですべての方向を睨んでいるもの。
 獅子のたてがみと蛇の鱗を持つもの。
 漆黒の影のようなかたまり。
 足のかわりに五本の尾を持つもの。
 毒蛇の牙から炎をあげる毒液をしたたらせたもの。
 邪神の群れであった。
 ある夜、突如として空がすっぽりと欠け落ちたかのように、漆黒の月が現れた。空間に開いた巨大な穴。
 そこから、外宇宙からの侵略者が、邪神がやってきた。
 歪みが具現化した邪悪の象徴。ルヴァフォース世界を根底から破壊するもの。極限まで堕落した究極の混沌。
 邪神の存在そのものが、このルヴァフォース世界と相容れないのだ。
 かくして戦いがはじまった。
 いくつもの森が燃えた。
 海は灼熱に沸騰した。
 大地は腐った。
 山がくずれた。
 空気は淀み、空は闇に閉ざされた。
 五つの国が滅び、七つの島が海に沈み、九つの都市が瘴気で腐り果てた。
 そして、その時。反抗の狼煙が上がった。
 邪神の前に立ちはだかるのはアイコーンの城塞。人類最後の希望の砦。
 
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