辺境異聞 8
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ュー、鶏肉パイ、マッシュポテトをそえた鱒のグリル、アンチョビー・ペーストをそえたバタートースト、それに山盛りのポテトフライ。バニラのアイスクリームとリンゴのタルト。
セリカの目の前に食べきれないほどの料理がならんでいた。
遠慮なく手にとって口にすると妙に味気ない。というよりも味がまったくしない。
それどころかいくら食べても腹がふくれる感じがしない。
「なんだこりゃ、まるで夢の中で食事をしているみたいじゃないか」
そのとおり、これは夢だった。
「……腹が減った」
食事をする夢を観るくらいの空腹に目が覚めると、どこからか食欲をそそる香ばしい匂いがただよってきた。
ベッドから身を起こすと、見覚えのないネグリジェを着ていることに気づく。自分で着替えた記憶はない。
「あいつ、まさかあたしが寝ている間になんかしたんじゃないだろうな……」
意識を失う前とおなじ下着を身につけているし、妙な悪戯をされた形跡もない。
それでも服を着替えさせられたということは下着姿をバッチリと見られたはずだ。
「まぁ、たしかにたくさん汗をかいたしな……」
一〇代のおぼこ娘ではない。羞恥心を頭のすみに追いやると、匂いのする方にむかった。
厨房で秋芳が調理をしている。
「目が覚めたか、体に異常はないか?」
「おかげさまでね、なにを作っているんだ」
「雉とリーキのスープ」
「いただこう」
雉は肉質こそ硬めだがしっかりとした味があって美味。出汁がよく出るので汁物にするとさらに味が深まるうえ、身が柔らかくなり食べやすくなる。
「こりゃあ美味い!」
「あいつら、自分らは血しか飲まないくせして大量に食料を蓄えこんでやがった」
「そういえば、フーラや残りの吸血鬼はどうした。私はどのくらい寝ていた。着替えさせたのはおまえか、脱がしたときに私の裸を見たのか。その時にエロいことをしたか」
「フーラをはじめ残りの吸血鬼はすべて退治した。あんたはちょうど一晩ほど寝ていた、今は朝だ。着替えさせたのは俺で、服だけ取り替えたが下着は脱がしていないから裸は見てない。当然エロいこともしてない。下着の色が黒だったが、酒場で違うとか言ってたな。俺の卜占はあたっていたのに嘘をついたのか!」
「ちっ、こまかいことを覚えてるやつだね」
「着ている服も下着も黒とか、どんだけ黒が好きなんだよ。ギークやナードみたいなファッションセンスだな」
「黒は汚れても、飲み物をこぼしても、洗濯するにしても、あんまり気にしないで一日を過ごせるだろ。素晴らしい色じゃないか、黒」
「だからってこぼすなよ」
「ふん、子どもあつかいするな」
パンをほおばり、スープを三杯ほどおかわりをしてようやく人心地ついたセリカは、お返し
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