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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 12
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 これが神の力だ。
 詠唱も集中も不要、所作や発言のひとつひとつが強大な霊力を秘めた呪術と言う形で体現される。

「やってしまった……。前帝より禅譲を受けたゆえ、平和的に大政を奉還をするよう、おだやかにたのむはずだったのに……」
「やむを得ないご処置でしょう、この者らの悪行はまさに官匪」

 中国には匪賊という言葉がある。集団で略奪や暴行をおこなう人非人であり、官匪とは汚職をしたり無実の人に冤罪を着せたりする役人のことだ。また法律を悪用する者は法匪であり、略奪や虐殺をおこなう軍隊は兵匪だ。

「苛政は虎よりも猛なり。しかしこの官匪どもらの台頭は民にも責任があります」
「というと?」
「これはとある娯楽小説の中で描かれたやり取りですが――『どうしてあなたがた政治家は私たち国民を馬鹿にするんですか?』『君らが私に投票したからさ』――という皮肉なやり取りがあります」
「…………」
「愚者の一票も賢人の一票も同等にあつかわれるこんにちの民主主義の愚かさを突いた言葉でありましょう。民主主義などという衆愚政治など排して公明正大な独裁政治を敷く必要があるのです。とかく悪玉にされがちな独裁政治ですが、こと決断と政策の速さにおいては民主制の比ではなく、英邁な君主の聖断ひとつで社会に蔓延する悪を即座に改善できるのです。そもそも人類の歴史をひも解いていけば――」
「夜叉丸」
「はっ」
「政は倉橋や佐竹に任せる。ぼくに帝王学は不要だ」
「これはですぎた真似を……、饒舌は我が悪癖のひとつ。おゆるしを」

 なにかが弾けるような音が響いた。
 凡百な物書きならば「乾いた銃声」とでも表現しそうな音は、事実銃声であった。呪縛の解けた警護官が多軌子たちにむかって発砲したのだ。
 グロック19から発射されたパラベラム弾はしかし巻き起こった漆黒のつむじ風によって中空に止められた。
 いや、風ではない。黒い外套がひるがえり、銃弾を受け止めたのだ。黒い外套の名は鴉羽織。その着用者の名は土御門夏目。夜光の意志と能力を受け継いだ、長い黒髪に白皙の(かんばせ)をした華奢な少女だ。

「夏目! ありがとう、助かったよ。ぼくはどうも飛び道具の類が苦手だからね」

 多軌子が苦笑いを浮かべてこめかみのあたりを指でさする。
 彼女に降りた神がまだ人だった頃、こめかみに一矢を受けて命を落とした。いちど霊的に刻まれた相性というものはなかなか払拭できない。
 特定の方法や道具で退治されたものは、復活したあともそれらが弱点として残る場合が多い。

 発砲した警護官を無言で処断しようとした蜘蛛丸を手で制す夜光。

「誅するのは貪官汚吏だけでいいだろう」

 薄い桜色をした硬質の唇からはそれにふさわしい玲瓏とした声が流れる。

「上からの命令とあれ
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