辺境異聞 7
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一芸に長けたような闇の賜り物はないのよ。その代わり、いろんなことができるわ」
フーラが手をかざすと無数の蝙蝠が召喚され、セリカに殺到した。これは通常の召喚魔術ではなく、狼や鼠といった動物を呼び出すことのできる吸血鬼固有の特殊能力だ。
それゆえ【イノセント・クローズ】により魔術の使えない状態でも行使できる。
「《風よ》」
セリカの周囲を颶風が吹きすさび、群がる蝙蝠を吹き飛ばす。
「おい、あぶないぞ! 室内でそんな呪文を使うな」
風で飛ばされた調度品に打たれた秋芳が抗議の声をあげる。
「だからこうして邸が壊れないように加減してるんじゃないか」
事実セリカは手加減をしている。この【ウィンドストーム】。本来ならば竜巻の周囲に真空の刃を広範囲にわたって出現させ、範囲内の物体を無差別に切り刻むものなのだ。
「部屋が壊れないレベルで手加減しろ、どうせやつらには魔術が効かないんだからな。――二〇〇年も吸血鬼をやっていたのか、ヨーグよりも先輩というわけか」
「ええ、そうよ。とても長い長い刻を過ごしてきたの、退屈で死にそうになるくらいに」
「たかが二〇〇年程度でずいぶんと大げさだな」
「たかが、ですって? わずか一世紀足らずで老い衰え寿命を迎える、定命の者からすれば永遠ともいえる時間でしょう?」
「あいにくと俺の故郷には仙人という不老不死の人たちがいてな、なにも人の血を吸って他者の生命力を奪わなくとも、修行をつんで仙人になれば永遠の生を得られるんだ。仙人になれば霞を食べるだけで生きていける」
霞を食べる、というのは天地に満ちる気。マナや霊力をエネルギーとして摂取するということだ。人の血肉どころか動物の肉を食べる必要もない。だが酒を飲んだり、美味佳肴を食す楽しみを捨てることはない。
「吸血鬼というやつはどうしてこう、たかが二、三〇〇年生きただけで『人生は退屈だ』とか『永遠の生は苦しみだ』とか言い出すんだろうな。宵っ張りの人生を楽しめよ」
「…………」
「漂泊民といったが二〇〇年の間にさぞかし多くの土地を巡り歩いたんだろうな。サイネリア島の椰子の実や、リリタニアの鯉を食べたことはあるか?」
「イテリアとヨークシャーの間を、何度も行き来したわ。わたしたちが口にするのはただひとつ、定命の者の生き血のみ」
「なんだ、セルフォード大陸から出たことがないのか。そんな引きこもりの上に偏食生活していたら退屈するのは当然だ」
「…………」
道教の仙人は千年万年と生き続けても退屈するということがない。
雲に乗って広い大陸を旅してまわる。
西湖の霧、娥媚山の雲、武陵源の山々、青海の花畑……。いたるところに絶景がある。
また一〇〇年後にでも訪れるとしようか、どう変わっているのか楽しみだ。
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