第三章
[8]前話
「他の怪物もな」
「じゃあ俺もな」
ロキは自分もと言った。
「知恵を出してやろう」
「いざという時はだな」
「ああ、御前さんのその力とな」
「御前の知恵でだな」
「何があっても乗り切っていこう」
「そうするか」
「ああ、あとな」
ロキはトールにこうも言った。
「さしあたっての食いものは持ったが」
「他にもか」
「塩は持ったかい?」
そちらはというのだ。
「ちゃんと」
「むっ、それもあったな」
「そう言うと思ってな」
ロキは口の左端を少し歪めて笑って一つの革袋を差し出した、そのうえでトールに対して言った。
「用意しておいた」
「済まない」
「ははは、備えあればだ」
塩も必要だからというのだ。
「持って来てよかった」
「ではその塩をだな」
「さしあたって使っていこう」
旅の中でというのだ。
「そうしていこう」
「そうだな、では山羊達を呼ぼう」
今度はトールが出した。
「いつも通り山羊達に曳かせた車で進もう」
「歩いてじゃないのか」
「俺の従者達も一緒だ、御前の世話もさせる」
「おいおい、随分と厚遇だな」
「それ位何でもない、行くぞ」
「悪いな、しかしな」
トールが早速山羊や従者達を呼ぶのを見つつだ、ロキはこうも言った。
「俺は今どうしてあんたと一緒に旅をしたりするのが好きかわかった気がするな」
「俺もだ、塩は有り難く受け取っておく」
「そうしな、じゃあ行くか」
「うむ、今回も共にな」
二人で話してだ、そしてだった。
トールとロキは共に旅に出た、その二人の笑顔は明るく実に心地よいものだった。その笑顔は旅から帰るまで続きその間お互いのことを忘れることはなかった。
その二人についてだ、主神のオーディンはこんなことを言った。
「あれで相性がいいのだ」
「トールとロキは」
「そうだ、トールは武骨でロキは悪戯好きだが」
「正反対ですね」
「しかしだ」
それでもというのだ。
「お互いにあれで気配りもしていてだ」
「相性もよくて」
「共にいることも多いのだ」
「そういうものですか」
「そうだ、まあわしは仲がいいことは好きではない」
実はオーディンは不和を好む、戦いの神であるので不和から戦いが起こるからだ。
「しかしな」
「取り立ててですね」
「戦いを起こす訳でもないとな」
「不和を起こすおつもりもですね」
「ない」
そうだというのだ。
「だからだ」
「あの二人のことも」
「あのままでいい」
こう言うのだった、そしてだった。
オーディンは二人の神はそのままでいいとした、不思議で奇妙な組み合わせの彼等を。
隠れた気配り 完
2017・7・17
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