第一章
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隠れた気配り
炎の神ロキはアスガルドの神々きっての悪戯者で何かと周囲を困らせては笑っている。それで神々からの評判は悪い。
だが雷と農耕の神トールとはよく一緒にいて親しい。神々がその二人の組み合わせをいつもいぶかしんだ。
「おかしな組み合わせだ」
「あの剛直なトールと悪戯者のロキの組み合わせはな」
「どういう訳か馬が合う様だしな」
「それはどうしてだ?」
「よくわからないな」
こう言って首を傾げさせる、その話は二人の耳にも入っていたがロキは気にしていなかった。だが。
トールは気にしていてだ、ある日ロキと共に昼食をしつつ自分の向かい側の席に座って食っているロキに尋ねた。
「前から思っていたが」
「どうして俺があんたとよく一緒にいるかか」
「そうだ、俺自身も何故かと思っている」
自分が何故よくロキと一緒にいるかだ。
「不思議と」
「ははは、相性かもな」
「それでか」
「俺達はよく一緒にいるんだ」
そうだとだ、ロキは羊の肉を焼いたものを食いつつ自分と同じものを食っているトールに言った。
「それでだ」
「そうなのか」
「こうして一緒に飯を食ってな」
「旅の時もだな」
「そうだ、これがオーディンだったらな」
主神である彼ならというと。
「あいつは一人でいたがるからな」
「旅の時はな」
「だから俺もあまりだ」
「義兄弟でもか」
「あまり一緒にいない」
そうだというのだ。
「これがな」
「ああ、しかしあんたは違う」
「一緒にいたくなるか」
「不思議とな」
今度は麦の酒を飲みつつトールに笑って話した。
「とうにもな」
「そうなのか」
「ああ、そしてな」
「そして?」
「林檎はいるか?」
ロキはここで黄金の林檎、神々が食べるそれを一個トールに差し出してそのうえで尋ねた。
「それで」
「悪いな」
「俺も食うしな」
「そうか」
「ああ、俺も一個な」
「もっと食ってもいいだろう」
「いいさ、一個で」
ロキの返事は笑ったままだった。
「昼はな」
「そうか、一個か」
「ああ、一個だよ」
それでというのだ。
「充分だよ」
「では俺も一個だ」
「あんたもか」
「御前が一個ならそれでいい」
トールも笑ってだ、ロキに言った。
「それでな」
「そうか、じゃあお互い一個だな」
「それで食うか」
こう話してだ、二人で黄金の林檎を一個ずつ食べてそれで終わらせた。その話の後でだった。
ロキはトールにだ、こんなことを言った。
「また旅に出るか?」
「旅か」
「ああ、そうするか?」
こう提案するのだった。
「またな」
「そうだな、またか」
「ああ、そうしないか?」
こうトールに言う。
「またな」
「わかった、
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