第一章
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ワイン漬け
ジェローム=ド=ルクラン伯爵は無類のワイン好きで知られている。その為ワインのことなら知らぬまではない程だった。
美食家として知られるルイ十五世にもだ、彼はどの料理にはどのワインがいいか、そして何時何処で飲むにはどのワインであるべきかも的確にアドバイスが出来た。
それでだ、王もルクランを讃えてこう言った。
「卿は欧州随一のワイン通だな」
「そう言って頂けますか」
「余は王だ、王は嘘は言わない」
ルクランに笑みを浮かべて告げた。
「決してな」
「それでは」
「これからも頼むぞ」
「ワインのことを」
「そして卿の本来の務めもな」
宮中における儀礼を取り仕切っている、儀礼に関する知識もかなりのもので王も信頼しているのだ。
「頼むぞ」
「それでは」
ルクランも応える、彼はワインのこともその宮中の儀礼のことも辣腕を振るい王を満足させていた。
とかくワインが好きなので常に飲んでいた、それは水を飲まずにワインを常に飲んでいると言われる程だった。
実際に彼はワインを常に飲んでいた、それこそ朝昼晩とだ。
飲んでいた、家でもそれは同じで。
「旦那様、では今朝は」
「シャンパーニュのものをだ」
「そちらをですね」
「飲むとしよう」
「わかりました」
起きるとすぐに飲む、それも一本だ。朝食の時にも飲み昼食の時も夕食の時もその間の水分摂取に飲む場合にもだ。
水ではなくワインでだ、常にそれこそ一日にボトルで何本も飲んでいる彼に友人のモーリス=ド=クレスパン卿は彼にこう言った。背が高く痩せた精悍な顔立ちは軍人に見えるが外交官として活躍している。
「君は相変わらずの様だな」
「ワインを愛しているというのだね」
「いや、前まではそうだった」
ルクランのふっくらとした福福しい顔を見て言う、目は青くクレスパンは自分の黒い目にない色を見つつ話した。
「君は、しかし今は」
「愛していないというのかい?」
「溺れていないか」
愛しているのではなく、というのだ。
「僕にはそう思える」
「溺れている?まさか」
ルクランは赤いワインをグラスで飲みつつクレスパンに返した。酔っている感じはあまり見られない。
「僕が」
「いや、今も飲んでいる」
「僕は水を飲まないじゃないか」
「そしてコーヒーもだね」
「お茶もだ、飲むものはだ」
「常にワインというのだね」
「だからだよ」
それでとクレスパンに言う、クレスパンは今は何も飲んでいない。
「君のその指摘は違うと思う」
「溺れていないのだね」
「愛しているのだよ」
「いや、何かどうもだ」
「まだ言うのかい?」
「君はワインの精にでも憑かれていてだ」
「溺れているのかい」
ルクランは自分に真剣
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