第六章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「お似合いだな」
「そちらもですか」
「そうだな。しかし」
「しかし?」
「全く、この結果はな」
やれやれといった顔でだ、カニンガンは言った。
「予想外だった」
「全く以て」
「これはあれだ」
「あれとは」
「日本の諺だが」
「そこでまた日本ですか」
「妹の末っ子が好きでな」
またこの親戚の話が出て来た。
「日本の諺にも詳しくてな」
「それで、ですか」
「日本の諺であるが」
「何とですか?」
「少し違うかも知れないがトンビに油揚げだな」
「トンビ?鳥ですか」
「そうだ、そして油揚げは日本の食べものだ」
そちらの話もするのだった。
「油揚げを持っているとな」
「そのトンビにですね」
「空から奪われる」
「つまり今の提督は」
「そうなるか?」
「そうですかね」
「そう思った」
こうグラッチスンに言うのだった。
「実際にな」
「そうですか」
「まあな」
ここでだ、こうも言ったカニンガンだった。
「相手の娘が好きになったのが彼なら」
「クロムウェル氏なら」
「仕方がない」
少し苦笑いになって言った。
「それならな」
「そう言われますか」
「相手が別の人を好きなればな」
「もうその恋は終わり、ですか」
「そうだ」
カニンガンの言葉は既に達観した者だった、既に終わっているものだった。
「だからな」
「もうこれで、ですか」
「彼女は諦める、ティターニアに行くのも止めよう」
「そうされますか」
「わしの恋は終わった」
カニンガンはこうも言った。
「仕方ない、もう彼女のことは忘れる」
「そうですか、では」
「今日は妻に贈りものをしよう」
「浮気への謝罪ですか」
「実際にそこまでいっていないがな」
告白もしていない、ラブレターさえ書いていない。あくまで未遂だ。
「しかし他の相手に恋をしたのは事実だからな」
「それで、ですね」
「妻に贈りものをしよう、何故そうするかは言わないがな」
「それでもですか」
「贈ろう」
実際にというのだ。
「そしてだ」
「これで、ですか」
「全ては終わりだ、しかし悪い思いはしていない」
恋は破れたがというのだ。
「いい思い出として覚えておこう」
「わかりました、ではな」
「忘れながらも」
相手への未練は持たないとだ、グラッチスンはカニンガンが忘れると言ったものについて述べた。
「そしてですね」
「恋をしたことは覚えておこう」
「奥様に心の中で謝罪をしてから」
「そうしよう、終わったものとしてな」
こう言ってだ、彼は笑って全てを終わらせた。そのうえで飲んだミルクティーは甘いがほんのりと寂しい味もした。
トンビに油揚げ 完
201
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ