第一章
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トンビに油揚げ
サー=ウィストン=カニンガン中将は妻子がいてしかも娘はもう嫁いでいる。ロイヤル=ネービーの提督として代々のサーの称号と共に社会的にも名士と言っていい。そうした立場だ。
だがそれでもだ、彼はこの時いささか軽率になっていた。
それでだ、秘書を務めているギルバート=グラッヂスン大尉に共に昼食を摂りつつこう言ったのだった。
「実は私は困っている」
「といいますと」
グラッチスンは若々し端正な顔で髪の毛はすっかり白くなり皺も目立っている肌も衰えているカニンガンのグレーの目と高い鼻のある顔を見つつ問い返した。
「軍務のことで」
「いや、プライベートのことだ」
グラッチスンのその端正な顔を見て返した、ブラウンがかかったブロンドの髪を奇麗にセットし青い目の光は引き締まっている。二人共ロイヤルネービーの黒と金色のブレザーの軍服を着ている。
「実はな」
「そうなのですか」
「しかも君にしか話せない」
口が固く誠実でしかも仕事が出来る彼でないと、というのだ。
「とてもな」
「どういったお話でしょうか」
メインディッシュの子羊のローストをフォークとナイフで切りつつだ、グラッチスンはカニンガンに応えた。
「それは」
「実は好きな女性が出来た」
「奥さん以外に」
「そうだ」
「そういうことですか」
「しかもだ」
さらに言ったカニンガンだった。
「その女性はかなり若い」
「お幾つでしょうか」
「おそらくまだ二十歳かそこそこだ」
カニンガンはあえて表情を消していた、元々表情は乏しいが話が話と思いそれで感情を消して話しているのだ。
「行きつけの喫茶店の新しいウェイトレスなのだが」
「閣下の行きつけの喫茶店といいますと」
「ティターニアだ」
カニンガンはその店の名前を言った。
「そこだ」
「あのお店ですね」
「君は行かないな」
「はい、一度か二度閣下にお供してでしたね」
「別にお気に入りの店があったな」
「私は喫茶店はオベローンです」
彼の場合はその店だというのだ。
「あの店のティーセットが好きなので」
「それでだな」
「閣下はあのお店の紅茶がお好きだからですね」
「昔から行っている」
彼が若い、まだ少尉だった頃からだ。
「そうしている」
「左様ですね」
「そしてそのティターニアにだ」
「ティターニア自身が来た」
「いや、彼女ではない」
カニンガンはグラッチスンの軽いジョークに同じ重量のジョークで返すことにした。
「ヘレナか」
「彼女ですか」
「どうもな」
「そうした感じだ、それでだが」
そのヘレナにとだ、カニンガンはグラッチスンに彼の望みを話した。
「願わくば」
「そのヘレナ嬢と」
「親しくなりたいのだが」
「
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