六 不可視の領域
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(誰だ…この手…)
白に満ちた空間。
眼に入ったソレが己の手だと気づくのに、我愛羅は幾許かの時間を要した。
(……なんだ…俺の手か…)
自分の手をまじまじと見遣って、眼を瞬かせる。
曖昧模糊な感情とおぼろげな記憶が、彼の思考を鈍らせてゆく。不明瞭な考えばかりが取り留めも無く溢れては泡のように弾けて消えてゆく。
不意に、強烈な感情を伴う心の底からの疑念が胸を突いた。
(…俺は、誰かに必要とされる存在になれたのだろうか…)
手持ち無沙汰に手を開き、そして握ってみる。その手が掴めたモノの正体が我愛羅にはわからない。
夢も希望も未来も、己には手に入れられないモノだと幼き頃から悟っていた。
縁が無いモノだと諦めていた。
しかしながら幼い頃から自分が望み、願い、手に入れたかったソレは、結局のところ、何であったか。
今、心の底から浮かんだ疑問こそが、己の望むモノだと、ややあって我愛羅は気づく。
誰かに必要とされる存在。
(…――何故、必要とされたかったんだろう)
手を開閉させながら、我愛羅は思い巡らせる。
幼い頃……心身共に子どもであった自分は、どういう存在であったか。
何の為に存在し、生きているのか。
生きている間はその理由が必要。そしてその答えが見つからぬ限り死んでいるも同然。
過去のかつての自分は、己以外の人間を殺す為に存在している、という答えに行き着いた。
たくさん殺せば自分の存在を確かめられる。
他人の死が自分の強さの象徴。殺した数が強さであり、己が生きる理由。
今となっては一笑に付すほどの愚かな解答であったが、あの頃の自分にはそれが全てであった。
そうでも考えないと己を保つ事が出来なかった。
開いた手を、我愛羅はじっと見据えた。
子どもの時より随分大きくなった手だが、果たして何かを掴めただろうか。
夢も希望も未来にも縁が無い自分が。手に入れられない自身が。この手に掴めない己が。
そんなおこがましい考えを持てるのだろうか。
誰かに必要とされる存在になりたい、だなんて。
(俺は何故、それを望んだんだろう。そもそも俺とはなんだ…)
自分自身が何者かでさえ、わからなくなってくる。
真っ白な何も無い虚空に、我愛羅は手を伸ばした。何かを掴むように。
広大な白に、ぽつねんと所在なさげに佇む己こそが、取るに足らない存在に思えてきて、自然と自嘲の笑みがこぼれる。
(ああ、俺はなんて小さな―――)
空を切った手が力無くダランと垂れて、下りてゆく。
手を完全に下ろすその寸前に、何かが我愛羅の手首をパシリと握った。
虚空を切って何も得られなかったはずの手が
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