辺境異聞 6
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心を病んだ者の文章には一定の特徴があるという。
普通の人が文章を書く場合はまず頭の中で文章を構成し、さらに推敲して文章にする。
だが狂気に囚われた者は頭の中での思考が断裂、混乱していたり、論理性が低下して支離滅裂な文章になってしまう。
さらに過去の記憶をよみがえらせること困難になるので、文章の内容に一貫性がなくなってしまう。
「……最後のページに書き記された署名を信じるなら、これは流行り病で亡くなったというソティーの書いたものだな。『愛する人』『悪魔』『魔女』はそれぞれだれだ……?」
第七階梯の魔術師であり、多種多様な学識を持つセリカが心理学を駆使して謎の日記を解読しているあいだ、秋芳も向かいの部屋で文献の束を紐解き、情報を集めていた。
「二日連続で本の山と格闘とはね、『クトゥルフの呼び声』のシナリオかっての。〈図書館〉技能大活躍かっての。……お、この錬金術のレシピ本はおもしろそうだな。この魔術書は学院の図書室にはないやつじゃないか、どれどれ……て、いかんいかん! いまはボルツェル家に関することを調べないと」
脱線しそうになるなか根気よく探すと、フーラの母ソティーと姉のヘルギの死について記述された古い記録類の束を発見できた。
図書室にあった記録書から抜き取られていた部分と思われる。
どうやらふたりは病死ではなく、ともに城内で行方不明になったようだ。またおなじ頃にボルツェル家の領内でも人が行方不明になる事件が相次ぎ、城内の召し使いも何人か消息不明になったと書いてある。
「ウンキ伯父さんはどうした、彼も不慮の死を遂げたはずだが……」
倉庫にあった肖像画の人物。ヨーグ伯の兄にあたるウンキはフーラが生まれた頃に事故で亡くなった。
そうフーラからは説明を聞いている。
「そのフーラだ。ヘルギの出生は記録にあるのにフーラは記録にない。……ウンキとフーラの名前がどこにもないぞ。直近で記されたボルツェル家の記録はヘルギの誕生。その前は『長子』であるヨーグ伯が家督を相続したことのみ。……家系図にもフーラとウンキの名は書かれていない。長子だと? ウンキはヨーグ伯の兄じゃなかったのか? ……ウンキもフーラも、戸籍上には存在しない」
ボルツェル家の記録のほか、奇異な書物も見つけ出した。
図書室にあった『暁の王』の破り取られたページだ。
その記述は抽象的で曖昧模糊としたものだが、ご丁寧にも注釈が書き加えられており吸血鬼になる方法が書かれているとすぐに理解できた。
暗黒神へ犠牲を捧げるやり方など、儀式のくわしい方法などが述べられている。
「よし、いちどまとめてみようか」
不快な埃と黴と、死者たちの気配に満ちた地下を後にした秋芳とセリカは
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