辺境異聞 6
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体には火傷ひとつ見あたらない。
対抗呪文をもちいたのではない。
近代の軍用魔術においては、B級は打ち消し(バニッシュ)ができない。防ぐしかない。
一定の威力規格を越えた攻性呪文は打ち消し不可能なのだ。
「その七色に輝く光……、エネルギー還元力場……、アンチ・マジック・シェルか? ああ、そうか。そういえばおまえたちは暗黒神の信徒。暗黒魔術が使えるんだったな」
聖エリサレス教徒たちが神聖魔術を使えるように、暗黒神の信徒たちもまた暗黒魔術を使うことができる。
神へと語りかける神聖言語。それは自己深層意識改革を通すルーン魔術とは異なり、『神』という高次元の存在に働きかけ、その加護を得る。
神聖魔術と暗黒魔術。ルーンとは異なる神聖語と暗黒語をもちいるこのふたつの魔術は呼びかたがちがうだけでおなじ魔術体系に属している。
暗黒魔術は光の神の信者が使用すること自体を悪として禁じられたものだが、暗黒神の信者にはそのような禁忌は存在しない。それゆえ治癒や防御の魔術が中心の神聖魔術よりも多くの攻性呪文が存在する。
「神聖魔術の【イノセント・クローズ】を使っているのか」
【イノセント・クローズ】。
高レベルの僧侶や神官のみが使用できる魔力を完全に遮断する絶対魔術防御呪文。魔術による攻撃を遮断できるが、術者の魔術も同様に遮断される。障壁は一定時間が経過するか、術者が任意に解くことがきる。
「うふふ、なにせ『天下の第七階梯』の魔術師が相手なんですもの、このくらいの備えがないと」
「そうなると肉弾戦になるわけだが、殴り合いでもはじめるつもりかい? 優雅ではないね」
「あら、この国では拳闘と剣術も貴族のたしなみにふくまれているのでしょう? 安心して、痛くはしないわ。抵抗しないならね!」
フーラの身が沈み、一足跳びにセリカへと躍りかかる。その手には光る刃物が、いや。短剣のように長く鋭い鉤爪が伸びていた。
だがセリカの白磁のように白くなめらかな喉が血の華を咲かすことはなかった。春の燕のように華麗かつ俊敏な身のこなしで躱したからだ。
「《来い》」
避けると同時にセリカの朱唇が呪文を紡ぐ。するとその手に蒼白に輝く白銀の剣が現れた。
【アポート】。
術者がよく知るなじみの物。あるいはあらかじめこの魔術のため呪印を描いていた物品を手元に呼び寄せます召喚魔術の一種。
銀光一閃。
フーラの鉤爪が切断され床に落ちる。とっさに手を引いていなければ手首を斬り落とされていたことだろう。
「おのれ!」
激昂したフーラの口が耳まで裂け、長い犬歯が剥き出しになる。
熾火のように爛々とした真紅の眼には怒りと憎しみが込められ、気の弱い者なら恐怖に卒倒してしまいそうだ。
実際
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