辺境異聞 6
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ーラもともに吸血鬼であり、事情を知らずに訪れた旅人や、様々な理由でやって来た人々を糧にして生きてきた。
しかしそれだけの生活に飽きてきた彼らは訪問者たちをただ食料にするのではなく、賭けの対象にして楽しむことにした。
フーラの書いた筋書き通りに訪問者たちをだませればフーラの勝ち。だまされなければヨーグの勝ち。勝ったほうが先に獲物を選び、血を啜ったあとで自分の僕にできる。
――というものだった。
「この数日間はとっても楽しかったわ。でもあなたがわたしになびかなかったのが残念。人間たちを仲たがいさせて争わせるのがおもしろいのに。……こんなふうに!」
フーラの瞳が鮮血の色に染まり、白い肌がさらに白く――死人の蒼白に染まる。
吸血鬼の本性を現したのだ。
赤く光る邪眼が秋芳の瞳を見すえ、心を虜にしようとする。
禍々しい眼光に縁取られた血のような瞳に、妙な安堵をおぼえる。赤い唇から覗く牙に惹かれ、屍のような蒼白な肌に頬擦りしたい衝動に駆られた。
「阿!」
気合いを入れ、素早く精神を統一。全身に気を廻らせ、惑乱しかけた身心を霊的に浄化。
呪的干渉の影響を極力排除する、密教にある阿字観という瞑想法の一種だ。
「そして今のが吸血鬼の瞳による魅了か。魔術によるものより強力だったな」
「……!? 【マインド・アップ】もなしにわたしの誘惑をはねのけるだなんて!」
このルヴァフォース世界において秋芳の使える呪術は制限されている。今もちいた阿字観は甲種呪術ではなく乙種呪術。
秋芳は自己暗示によって自身の精神力を強化したのだ。
このようなものはフィクションの世界だけの芸当ではない。
たとえば修験道の行者や忍者の使う九字護身法などは心の不安や動揺を打ち消す精神安定の効果があると実証されている。
「これはこれは! シーホークを救った英雄という評判は伊達ではない。噂にたがわぬ猛者ではないか」
秋芳たちの身の上は城に訪れた日の夜に話してある。シーホークの一件もその時に説明済みだ。
「フーラ、その騎士爵は私がもらうぞ。なかなか珍しい獲物だ」
「……そうね。そういうルールですものね、わたしはこちらでがまんするわ」
「天下の第七階梯をつかまえてずいぶんな言いぐさだね。――《ふざけるな》」
虚空より出現した紅蓮の火柱がフーラとヨーグの身体を飲み込んだ。
黒魔【プロミネンス・ピラー】。指定した空間から天を突くような紅炎の柱を呼び出す。周囲に影響をおよぼさずに対象をピンポイントで狙える空間指定単体攻撃が可能なB級軍用魔術。
ふたりの夜魔は瞬く間に消し炭ひとつ残らず焼却された――かのように見えたのだが。
「――ッ!?」
虹色の燐光に包まれた衣類には焦げ跡ひとつ、身
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