辺境異聞 6
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ーンが食べたい」
「そういえはこの世界じゃ生の牛乳も飲めるんだよな」
イギリスで生の牛乳を人々が口にするようになったのは一八七〇年代に入ってからだという。
それまでは牛乳は飲むよりもバターやチーズ、クリームの原料として使われていた。市販されている牛乳のほとんどは水で薄められおり、その水も衛生的ではない。
牛乳だけで飲むときは必ず温めホットミルクにする。生の牛乳を口にするような勇者や挑戦者などいなかった。
「角砂糖なんて便利なものもあるし」
角砂糖ができたのもおなじ頃だ。それまでは円錐形をしている砂糖のかたまりを食料品店で砕いてもらい、必要な量だけ買って帰り、家ではさらに必要に応じて小さく割ったりすりつぶしたりしていた。
「一見するとヴィクトリア朝時代のイギリスのようだが、技術も文化も人々の意識もずっと近代的だ。さすが異世界だよなぁ」
「またわけのわからないことを……。そろそろ頃合いじゃないか。夕食の席でこの記録を突きつけて誰何してみよう」
「そして『あなたがたは吸血鬼じゃないですか?』と訊くわけか。さて、どんな反応が返ってくるかな」
「とっとと正体を晒して襲ってきてもらいたいものだよ」
「たしかに、そろそろおしまいにしたいな、俺も芋と肉だけの食事に飽きてきたところだ。屋台のチキンブリトーが食べたくなったわ。ところで正体といえばフーラなんだが、『娘』じゃないとするとだれだと思う?」
「そうだねぇ、逆を張ってヨーグの実母ってのはどうだ」
「なるほど、ありだな」
「ありだろ」
「じゃあ俺は意表をついて赤の他人説だ」
「賭けるか」
「賭けよう」
「じゃあなにを賭けるか――」
「そうだなぁ――。むっ、……だれか来るぞ」
先に述べたようにこの城の住人はおなじ気を帯びている。秋芳の見鬼でも部屋に近づく者がフーラなのかヨーグなのか、召し使いのだれかなのか、目で見るまではわからない。
「お邪魔します。さっき偶然に父の部屋で見つけたものなのですが、おふたりに見てもらいたくて……」
青い顔をしたフーラが書類の束を手渡す。
黄ばみの浮かんだそれらはいかにも年季の入ったもので、遺産相続に関する権利書や記録書のようだ。地下で見つけたものとおなじ種類の書類だが、内容が微妙に異なっていた。
そこにはソティーとウンキが婚約していたこと、その時すでにヘルギは生まれていたことが、ふたりの署名入りで書かれている。
またウンキが事故死したのが、ソティーがフーラを身籠る以前であることと、ソティーがヨーグと結婚したのはウンキの喪が明けてからであることがわかる。
「嗚呼、わたしは父の本当の子じゃないのかしら……」
フーラは潤んだ瞳で秋芳を見つめる。
「なぁ、フーラ。ちょっと
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