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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 11
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いて皿に盛られた料理の数々が中空を飛んで運ばれてきた。
 いや、ちがう。
運んでいるのはのっぺりとした影法師――簡易式なのだが、実に精妙な穏形がほどこされており、よく視なければ手にした物が宙を飛んでいるとしか見えない。
 秋芳や京子といった見鬼を有する者ですらそうなのだ、なんの霊感もない一般人が目の当たりにすればポルターガイストかテレキネシスかと仰天することだろう。

「おう、これはみごとなお手前で」

 かの大陰陽師、安倍晴明は式神を家事に使っていて、土御門大路にある彼の屋敷では人がいないのに勝手に門が開閉したり御簾が上下したりして、呪術に縁のない一般人はたいそう気味悪がっていたというが、それに通じるものがある。
 式神の使い方が巧いのだ。
 流れるような無駄のない動きで茶を点てる茶人のごとき流水の妙技。
 この春虎にはそれがあり、なるほど、たしかにこの春虎は優等生だと秋芳と京子は実感した。
 機敏に動く式神達の手により、たちまちアリーナの中央は宴席場に早変わりし、食欲をかき立てる匂いに満たされる。

「これは、羊か」
「ああ。料理は表の、清真料理のコックが作っている」
「本場イスラムではなく中国風イスラム料理か、西安料理に近いな。なかなか本格的なんじゃないか」

 大きめの小龍包のような灌湯包子(グワンタンパオズ)、香草や香辛料と羊肉で味つけしたスープに硬いパンを入れて食べる羊肉泡莫(ヤンルーポーモー)香草で香りをつけた羊のセンマイ炒めである芫爆散丹(ユエンバオサンダン)。羊の頭の部分で作った冷菜は水晶羊肉(シェイジンヤンルー)、牛のアキレス腱の煮込み紅焼蹄筋(ホンシャオテイジン)――。

 龍肝豹胎と称するにふさわしい山海の珍味佳肴の中にゆで卵を薄く切ったような料理を見つけた。

「おう、これは独羊眼じゃないか?」
「なにそれ?」
「羊の目玉を柔らかく煮込んだものだ。聞くところによれば白目の部分はゼリーのような食感で黒目の部分はイカの塩辛のような濃厚な味だとか」
「うっ……、あたしパス。いらない」
「こんなのめったに食べられないぞ、せっかくの機会だしためしに食べてみたらどうだ」
「いらない、絶対にいらない。そんなの口にするくらいだったら鵺の肉でも食べたほうがマシ」
「…………」

 その言葉に春虎の口もとがかすかにほころんだ。まるでとっておきのいたずらを仕掛けた子どものように。

「ところで清真料理ということはアルコールの類はNGなのか?」

 ハラールを忠実に厳守しているイスラム料理店では酒類をいっさい置かない。だが信仰よりも商業主義に重きを置く店なら普通に酒を提供してくれる。

「へぇ、おまえさんいける口なのか。坊さんみたいな見た目なのに意外だな。よう、春虎。せっかくの客人のご要
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