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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
辺境異聞 5
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壁面に施された装飾も、長椅子も、燭台や花瓶も、奥にある祭壇に置かれた十字聖印も――。部屋にあるすべてが人骨で作られている。

「これは……! まるでチェコのセドレツ納骨堂じゃないか」
「納骨堂を兼ねた礼拝堂といったところか。しかし悪趣味の極みだな」
「蝋燭や篝火の燃えさしが残っているのを見ると、現在も定期的に礼拝がおこなわれているということか。しかし、なにを拝んでいるんだ」
「決まっているだろう、暗黒神だ」
「暗黒神てのはどういう神様なんだ?」
「善悪二元論の聖エリサレス教において絶対の正義、善であり至高の存在である神に対抗し、絶対悪として表される存在。法や秩序を重んじる神に対し、欲望に忠実であれと説き、無秩序や混沌を良しとする。創世神話において神との戦いに敗れ、魔界や地獄と呼ばれる異界の深闇に堕とされるが、徐々に勢力を盛り返してふたたび神に戦いを挑むとされている」
「悪魔とはちがうのか?」
「人々に信仰される、されないかのちがいにすぎない。と考え、悪魔と同一視する者もいる」
「あんたはどう思う」
「悪魔だろうが善神だろうが悪神だろうが、ようは強力なモンスターさ」
「エリサレス教の神や暗黒神には固有の名はないのか?」
「それはむずかしい質問だな。当然やつらにも『真の名』があるはずだが、それは極秘にされている。というか人の世に伝わっているかどうかですら不明だ。複数の宗派や教団がそれぞれ別の呼称で――」

 話しながら室内を調べていると、いきなり埃が舞い上がった。
 ここは地下にある。風など、吹かない。

「アッシュか!」

 アッシュ。死体を焼いた灰を元に作り出されるアンデッド。 普段は容器に納められていたり、砂や埃のように地面に広がっているが、生ある者が近づくと舞い上がり人型をとって襲いかかってくる。
 灰という肉体的な特徴から武器などによる攻撃は効かず、一度焼かれた存在であるため炎も効果がない。
 アッシュの攻撃もまた直接的に危害をあたえるものではなく、目標となる生物を包み込み、口や鼻から体内に侵入して内臓を傷つけるというものだ。
 アッシュだけではない。
 無数の骸骨――スケルトンがうごめき、起き上がった。
 犬のような顔と蹄を持ったグール、黄色く輝く穢れた光につつまれたワイト、骨と皮だけのドラウグル。
 さらには頭蓋骨の形をした悪霊ラフィン・スカルなどの肉体を持たないホーントまでもが出現した。

「うううう……ぐぼぼぼぼぼぼぉぉぉ……」
「新鮮な血肉だぁ、捧げよ捧げよ、われらの贄となれぇ」
「脳みそぉぉぉ、喰わせろぉぉぉ」
「おれは、はらわたが食いたい」
「熱イィィィィ、寒イィィィ、ひもじイィィィ、苦しイィィィ」

 悪しき不浄の死者たちが、生者への憎悪と敵意を剥き出しに襲いかかる。
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