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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 10
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かっていたが、それらはすべて静止画像のように動かなくなっていた。
 いや、ちがう。
 ひとりがぶちまけた鍋の中身が顕微鏡で見るアメーバのようにゆっくりと形を変えている。
 加速状態にある地州の目には周囲の景色がスローモーションに見えているのだ。
 足を一歩踏み出す。
 重い。
 まるで水中での動作のように抵抗がある。それでも一歩一歩と距離をつめる。無音だった地州の耳にごうごうという音が聞こえる。
 風を切る音だ。
 地州の主観では秒速二〇センチでしか動かしていなくても、実際には秒速八〇メートル。時速にして三〇〇キロに近い速度で移動しているのだ、手足を振るたびに風切り音がするのは当然だ。
 また水中にいるかのような感覚がするのは空気抵抗のせいだ。
 相手がいかに武芸百般を心得ていようが、単純なスピード勝負に持ちこめば意味がない。神経伝達速度のちがいは決定的であり、反応速度がちがう、思考速度がちがう。
 超高速の攻撃を受け止めなどできない。
 ゆっくりと(あくまで地州の主観で)秋芳に近づき、拳を振るう。
 大ぶりのフックだが避けられる心配はない。この一撃で決まる。相手は攻撃されたことすら気づかず斃されることだろう。
 地州はおのれの勝利を確信した。
 しかし――。
 するり、と拳が躱される。

「んなぁッ!?」

 避けた。
 超高速による攻撃を回避した。
 空振りに終わり動作が崩れる。すぐには体制を立て直せない。なにせ猛スピードで動いているのだ。秒速一〇〇メートルでも約一〇センチの減速区画が必要となる。いったん開始した動作を急停止することはむずかしいのだ。

「アラハバキ神呪とは恐れ入った。そんなレアな呪の使い手ははじめてだよ」

 足をそろえて両腕を少し広げた状態で宙に浮いている秋芳の声がはっきりと地州の耳にとどいた。
 それはつまり相手もまた自分とおなじ加速状態であることをしめしている。

「きさまぁ……」
「地州といったな、お世辞抜きで凄いよ、あんた。こうまで肉体操作系の術を制御できるなんてな」

 祓魔官や呪捜官のなかには呪術によって自身の能力を上昇させて戦いにのぞむ者もいる。俗にいう魔法戦士タイプというやつだ。
 膂力を上げる仁王真言や素早さを上げる韋駄天真言などがよく使われる。
 地州が使用したのも韋駄天系に分類される敏捷性(アジリティ)俊敏性(クイックネス)を上昇させるものだが、通常の韋駄天真言による加護をはるかに上まわるものであった。
 並の術者がもちいる韋駄天真言では、せいぜい身を軽くしたり足を速くする。反射神経を良くするのが精一杯だろう。
 時速三〇〇キロの動きにまで高める呪力。そしてその高速移動に対応するための動体視力の強化。空気抵抗をやわらげたり、衣類や皮膚を守
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