辺境異聞 3
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サポート・スペル)。一瞬にして脳内再生されるため、口頭や文章で伝えるよりも鮮明で素早く正確に内容を理解させることができる。
本来は白魔儀。儀式魔術で、複雑な手順と手間暇を要する、それなりに高度な魔術だが、セリカはそれを三節呪文に落とし込んだ。
論理的には可能でも、技術的には至難の業だ。それはもはや固有魔術に近い。
「なんちゅう呪文だ……。それにあんた、ヨーグ伯の部屋に忍び込んだのか。大胆なことをする」
「フーラの出生にはなにか秘密があって、ヨーグ伯は城内にそれを隠して、だれも触れないように監視の目を光らせていると言っただろう。なら一番怪しいのはヨーグの私室だ。真相を記した日記でも見つかれば一発だと思ったんだけどね」
「アドベンチャーゲームの謎解きや情報集めを無視して一気にクリアしたがるタイプだな」
ヨーグ伯の生活について、召し使いたちからある程度のことは聞けた。
彼は朝が遅く、自分の部屋から出てくるのは昼と夜の食事の時だけで、三〇分ほどで食事を済ますとすぐに自室へ戻る。
昼食時、セリカはこっそりと侵入をこころみた。
だが部屋にはしっかりと鍵がかけられていた。それも魔術による施錠、扉や箱などの開閉式の物体に鋼の強度を宿す【ロック】の上位魔術である【ハード・ロック】が。
しかも出入りするたびに合言葉を変えている痕跡がある。
セリカの魔力であれば【アン・ロック】や【ディスペル・フォース】で解除できるが、いちど解除したものをもとの状態に戻すのはむずかしい。開けてしまえば何者かが侵入したとすぐにばれてしまい、疑いの目は部外者であるこちらに向けられるのは明白だ。
ヨーグ伯の私室は三階にある。バルコニーから侵入しようとすれば登攀するか空を飛ぶ必要があるが、そちらにも【ハード・ロック】がかけられていれば意味はない。
どうするか?
幸い部屋自体に魔術的な結界は張られていなかったので、セリカは【レイス・フォーム】を使って幽体離脱し、室内を物色した。
清潔だった。
あまりにも、清潔だった。
清潔すぎる。
壁にも床にも塵ひとつ落ちていない。
それ自体は不思議ではない、貴族の私室だ。毎日のように使用人たちが念入りに清掃していれば、そういう状態を作り出すことはできる。
そういうレベルではないのだ。居間にも書斎にも寝室にも、全く生活している様子がない。感じられない。
物を、調度品どころか机の上のペンや燭台ひとつかすかに動かした形跡すらない。
異様さを感じつつ書斎を見れば魔術関連、特に死霊術に関する本が数多く並んでいる。
次に多いのは聖エリサレス教会が禁書指定している、異教の神々や信仰について記された本だった。
思っていた以上に書物の数は多い。
とおりいっぺん
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