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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
辺境異聞 3
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い!」
「ははは、すごいだろう、すごいだろう」
「あのう、セリカさん。お口に合わないのなら新しく淹れてきますが」
「いや、私が淹れるよ。厨房のなかのものを好きに使ってもいいかい」
「はい、どうぞご自由に」

 セリカが席をはずしているあいだ、フーラはずっと秋芳に話をねだり続けた。

「外の世界を見てみたい……。わたしはここから出ることなく父の決めただれかと結婚し、年老いてゆくのです」
「ご自分を籠の中の鳥だとでも?」
「ええ、そう。ここは牢獄です」
「たとえ籠の中からでも想像力さえあれば人は自由に羽ばたき、どこにでも飛んで行けます。ライツ=ニッヒは座して紙上に数多の物語を、世界を創りました。本を読むこと、書くことは旅をすることとおなじです。人は読書を通じて、それまで知らなかった世界や感情。人生を旅することができるのです。行ったことのない南の島の青さと緑に目を細め、極北の凍った風の匂いを嗅ぎ、身を焦がす恋をする 。名もない男や老女、さすらう犬になる。そのたびに自分の中の世界が広がってゆく。宇宙が誰にも気づかれないうちに広がるように」
「……とても、誌的ですね」
「だから図書室や書店には、本の中には、本を書いたり読んだりする人の頭の中には無限の世界が詰まっている。いろんな時代、いろんな物語、いろんな命。そして死――。籠の中には無限の世界が存在し、穏やかな静寂があり、ゆるやかに流れる時がある」
「わたしに作家になれと?」
「本は嫌いで?」
「いいえ、好きよ。でも他のこともしたいの、ダンスとか」
「舞踏会ならいくらでもひらけるでしょうに」
「父の決めた相手ではなく、いろんな方と踊りたいのよ」

 艶然と微笑むフーラ。可憐で切なげな表情にかすかにまざる妖艶な表情。
 それがまた、魅力に思えた。

「踊ってくれますか?」
「ああ」
「ワルツはできますか? わたし、まだだれとも踊ったことがないんです」
「ワルツは簡単だ。女性は男性の少し右に立ち、六つのステップを踏むだけですむ」
「音楽はありせんが、お願いします」

 手を取り合ってワルツを踊る。
 蝋燭の灯りに照らされ、ふたりの影が幾たびも交差する。

「待たせたな!」
「きゃっ」

 いつの間に帰ってきたのか、新しく淹れたハーブティーを持ってセリカがそこにいた。

「おやおや、まぁまぁ、お邪魔しちゃったかな。若いおふたりさん」
「そ、そんなことありません!」
「踊って喉が渇いたろう、お茶でも飲みなよ」

 セリカの注いだ茶を 口にした、その時。

「あ、ごめん。私ってば砂糖とまちがえてシアン化カリウム入れちゃったみたい。てへぺろ(・ω<)」
「ウボォアーッ!? なんでそんなまちがえようがないものをまちがえるんだよっ。そもそもなん
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