巻ノ百十三 加藤の誓いその八
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「そしてな」
「そのうえではじめるものだ」
「敗れた時にも備え」
「その通りです」
「流石天下の名将、全てわかっておるか」
「いえ、それがしはとても」
「謙遜はよい、知っておる者は知っておる」
幸村が天下に比類なく程の名将であることはというのだ、これまで父や兄と共に戦ってきたのを見てだ。
「わしもその一人じゃ」
「そうなのですか」
「見ている者は見ている」
しかと、というのだ。
「そしてわかっておるもの」
「全くその通りです」
「殿こそは天下の名将」
「我等の主に相応しい方です」
「これ以上はないまでに」
ここでこれまで黙っていた十勇士達が加藤に彼等の幸村への想いを話した。
「そう思ったからこそです」
「我等殿にお仕えしております」
「将帥としての器にです」
「その何処までも高潔なお心」
「これ以上の方はおられませぬ」
「まさに真の名将」
「資質もお人柄も」
「真の武士でもあられます」
「そうじゃ、わしもそう見ておる」
幸村はというのだ。
「だから託せる」
「左様ですな」
「殿ならばです」
「約束を違えることなくです」
「果たして下さいます」
「何があろうとも」
「そうじゃ、だからわしも託す」
幸村、彼にというのだ。
「わしがいなくなった後をな」
「では必ず」
その幸村の言葉でだ。
「島津殿に文をお渡しし」
「そしてじゃな」
「時が来れば」
まさにとだ、こう話してだった。
幸村は加藤から文を受け取った、ここで加藤はまた幸村に話した。
「これで今生の別れとなるな」
「はい」
幸村も応える。
「久方ぶりの出会いでしたが」
「そうだな、しかしな」
「よき出会いであったと」
「そう思った」
こう言ったのだった。
「最後に貴殿と出会えてよかった」
「有り難きお言葉」
「ではじゃ」
「はい、今より」
幸村は応えてだ、すぐに十勇士に向き直って彼等に告げた。
「行くぞ」
「はい、これより」
「薩摩にですな」
「入りますか」
「熊本を発ち」
「その前に宿に銭を払っておく」
このことは忘れなかった。
「よいな」
「銭ならわしが払っておくが」
「そういう訳にはいきませぬ」
こう加藤に話した。
「これはそれがし達のこと、ですから」
「貴殿が払うか」
「そうさせて頂きます」
「そうか、律儀であるな」
「義は確かにしませぬと」
「武士ではない」
「はい」
こう言ったのだった。
「ですから」
「そうか、わかった」
「では銭を払ってから」
「薩摩に向かうか」
「そうします」
こう言って実際にだった、幸村は一旦十勇士達を連れて宿に戻り親父に銭を払ってそうしてだった。
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