巻ノ百十三 加藤の誓いその七
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「その様に」
「それではな」
「すぐにでもですな」
「文を書く」
幸村を見据えて述べた。
「今よりな。そしてな」
「その文を持ち」
「薩摩に向かってもらいたい」
「さすれば」
「そしてじゃが」
さらに言った加藤だった。
「薩摩への道は」
「ご心配なく」
幸村は加藤にはっきりと答えた。
「そのことも」
「道はあるか」
「我等真田一族は侍ですが忍の家でもあります、信濃にいようとも」
「忍故にか」
「天下の至るところに道をもうけております」
真田の忍道のことを言うのだった。
「我等だけが知っている道が」
「その道を使ってか」
「薩摩にも入ることが出来ます」
「入ることさえ難しいが」
「はい、我等ならです」
その道を使ってというのだ。
「入られます」
「そうか、ではな」
「後は島津家に入り」
「そうしてな」
「島津殿にお話をすれば」
「それでよい、しかし今島津家の主はな」
加藤は幸村に今の島津家の話もした。
「龍伯殿が亡くなられ」
「そうしてですな」
「惟新斎殿も隠居され」
四兄弟のうち歳久、家久は既にいない。義久つまり龍伯が死に最後の一人である義弘つまり惟新斎もというのだ。
「今は米菊丸殿が継がれておる」
「では」
「あの御仁に文を渡されよ」
義弘の子であり今の島津家の主である島津忠恒、彼にというのだ。
「よいな」
「わかり申した」
「島津家も代替わりしたが」
「幕府に対してはですな」
「思うところがあるのは変わらぬ」
このことはというのだ。
「だからじゃ」
「右大臣殿もまた」
「そうされるからじゃ」
「文をお渡し」
「いざという時に備えてもらいたい」
「わかり申した」
「米菊丸殿はご自身に逆らった者には容赦されぬが」
そうした家臣達を誅殺もしている、このことでも知られているのだ。
「しかしな」
「右大臣殿については」
「そうしたことはない」
「そもそも右大臣殿が島津家に逆らうか」
つまり忠恒にだ。
「有り得ませぬな」
「うむ、家臣でもないしな」
「だからですな」
「有り得ぬ、それ故に米菊丸殿もじゃ」
「薩摩に入られれば」
「無事に余生を過ごせる」
万が一のその時でもというのだ。
「だからな」
「はい、全てを整え」
「これからのことを託したい」
秀頼のそれをというのだ。
「頼んだ」
「さすれば」
「戦は打てる手は全て打つもの」
加藤は死相がはっきり出ている顔で言い切った。
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