EX回:第33話(改2)<いつか靖国で>
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隊を構成する、以上だ。準備かかれ」
『ハッ』
全員、敬礼をした。
海上で戦闘中の艦娘は最悪の場合そのまま置いていくことになるのだ。彼女たちは分かっているだろうが、ずっと無言だった。
私は機長に指示を出す。
「機長、着水を」
「了解」
応えた機長は低気圧が接近して、うねりの出ている海上へと、ゆっくり着水した。
ザザザという水の音と同時に水しぶきが上がる。水上に浮かんだ機体は鉛色の波間で大きく揺れていた。
窓の外の大きな波を見ていると、ふと舞鶴で敗北した作戦の悪夢が蘇る。あの時の敵は荒れる海の中を縦横無尽に攻撃してきた。恐らく今回の敵も海上からは探知できない潜水艦も引き連れているだろう。
だが私たちには潜水艦娘は居ない。まして今回は作戦立案そのものが初っ端から非情なのだ。
ただ幸い、やみ雲な特攻作戦とは違って彼女たちは逃げ場の無い戦いをするわけではない。もし、この闘いで生き残れば……の話ではあるが別の時代、未来において生き続けることも可能なのだ。
(それだけが唯一の救いか)
時間と共に海上は荒れてきた。
さらに天候が悪化すれば戦闘の結果に拘らず艦娘たちの回収も困難になるだろう。
「時間が無いぞ、急げ!」
技術参謀は急かす。
(分かってるよ!)
内心叫びつつ私は夕張さんと夕立に指示をして艤装を準備させる。
艤装は演習用の簡易型しかないが仕方が無い。各自、機内で装着する。
その作業を見ながら気象状況の索敵をしていた技術参謀が付け加えた。
「あの嵐だが様々な状況からして我々の帰還への扉となる可能性が高い。その場合は、どうなるか……分かるな?」
「……」
もちろん分かっている。
参謀は淡々と言う。
「我々は海上での交戦よりも帰還を最優先させる」
『……』
艦娘たちも黙っていた。
私は思わず出撃する一人ひとりの手を握ってまわった。みんな泣きそうだが我慢しているのが痛いほど分かる。
私が日向の手を最後に取ったとき彼女は言った。
「司令。いつか靖国で……」
それ以上、彼女の口からは言葉が出なかった。
私も涙が流れるのを防ぐために何も言わず手を離すと直ぐに命令を出した。
「迎撃隊、出撃せよ!」
『出撃します!』
夕張さんが扉を開けると荒れる外洋独特の潮の香りがした。強まった風と水しぶきが機内に入り込む。
「この潮の香りも、久し振りだな」
私は自分の緊張を誤魔化すように呟いた。
艦娘たちは髪や服を棚引かせながら次々と海上へと降りていく。私は扉の横で敬礼しながら一人ひとりを送り出した。
「来るよ!」
寛代が叫ぶと鉛色の雲の隙間に敵機が目視できる。
機長が叫ぶ。
「本機は退避します」
「了解!
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