辺境異聞 2
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『疾風脚』と呼ぶが、制御を誤れば高速状態で障害物に衝突したり転倒するという危険な魔導技だ。
「あと【レビテート・フライ】と【サイ・テレキネシス】の組み合わせで空中移動を試みたような……」
黒魔【レビテートフライ】。飛行呪文だが基本は浮くのみで、機動力を維持しながら長時間飛ぶためには専用の魔導器が必要。昔は箒型の、現在は指輪型が主流だ。
「酔っぱらってすることじゃない。よく事故らなかったもんだ」
散策のゆるしを得たとはいえ人様の家をあちこち見て廻るのも趣味が悪い。談話室の中で過ごしていると、ボルツェル家に仕える侍女が顔を出した。
「失礼します、お客様。お食事の用意ができましたので、食堂に案内いたします」
ことわる理由はない、ふたりは食堂へとむかった。
席に着くと夜会服を着た紳士が現れ、城主のヨーグ・ボルツェルと名乗った。すぐにフーラも現れ夕食が始まったのだが、彼は早々に食事を済ませてすぐに自室へと戻る。
(どうも俺たちは歓迎されていないようだな)
それだけではない、娘のフーラともひと言も口を聞かず、目も合わせなかった。どうもここの親子仲は良好ではないように思えた。
「ごめんなさいね、こんな田舎臭いものしかなくて」
骨つき羊肉とマッシュポテトに季節の野菜のサラダとスープ。洗練されたフェジテの料理や新鮮な魚介類を使ったシーホーク料理にくらべれば素朴で、味つけも単調だった。
たしかに良く言えば野趣のある、悪く言えば田舎臭い料理だ。
「なぁに、たまにはこういうのも悪くないさ。塩と胡椒があれば大抵のものはごちそうだからね、塩気のない川魚なんて味気ないものだよ」
「その味気ない川魚をひとりで三尾もたいらげておいてよく言う。次からは塩を錬成して振りかけてやるよ」
「それは遠慮しておこう、高速錬成された物質は一定時間でもとにもどるからな」
「まぁ、おふたりには魔術の心得がありますの? わたしも多少は使えますの」
フーラは腰に差した短杖を見せる。
貴族の令嬢なら魔術を習得していてもおかしくはない。
アルザーノ帝国では、魔術、剣術、拳闘、乗馬、学門の五つは貴族の五大教養とされ、人の上に立つ者は文武両道たれ。というのが古典的な帝国貴族の考えだ。
「差し支えがなければおふたりのことを聞かせてください。ここは旅人も滅多におとずれない田舎で、外の話が知りたくて――」
ヨーグ辺境伯が退席した途端にフーラは饒舌になり、堰を切ったようにしゃべりだした。
この娘、やはり父親が苦手な様子だ。
「とても楽しい夕食でした。こんなにお話したのは久しぶりです。おふたりとも、おやすみなさい」
洋の東西を問わず田舎の夜は早い、フェジテなら
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