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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
辺境異聞 1
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こえてくる。アケビを食べ終わる頃には滝壺にたどり着いた。
 清水で口をゆすぎ、喉を潤して川沿いに下る。

「あ、あれ」

 セリカが川面を指さす。陽光が反射して縞模様になった水面を黒い影が泳いでいる。

「イワナか」
「あれ食べたい」
「まぁ、アケビだけじゃもの足りないか」

 手ごろな大きさの石を拾い、狙いをつける。

「…………っ!」

 川にむかって放った石でイワナを一尾、仕留めた。

「さっきも思ったが器用なものだな。その石、符呪したわけじゃないんだろ?」

 純粋な魔術戦にこだわる魔術師からは嫌われているが、投擲武器に必中のルーンを書いたり刻んだりして戦う方法は広く知られている。

「印字打ちといってな、野外生活にあると便利な技だよ」

 自分の分もふくめてもうニ、三尾仕留めようと狙いをつけるが、なかなか水面に浮かんでこない。少しでも深みにいると石の勢いが削がれて仕留めきれないのだ。

「手裏剣でもあれば楽に捕れるんだが……」
「めんどくさいなぁ、ここは私が【ブレイズ・バースト】で発破漁を――」
「そういうのをやめろと言っているんだ! そんなことをすれば関係ない生き物まで死んでしまうし、食べきれない分まで捕る必要はない。無益な殺生はよせ」
「まったくエリサレス教会の僧侶みたいなこと言うやつだねぇ。いいじゃないか、ついでに湯浴みもしたいし」
「湯?」
「そう。ひとっ風呂浴びてシャキッとしたいんだよ」
「川の水をせき止めて湯を沸かすつもりか?」
「うん」
「豪快な……、リナ=インバースみたいなことを考えるやつだ。水浴びじゃいかんのか」
「水浴びするには風も水も冷たすぎるよ」

 北東の万年雪連峰を越えて流れてくる寒冷な気団の影響でフェジテの気候は一年を通して涼しい。

「なら【トライ・レジスト】を使えばいいじゃないか。あるいは【エア・コンディショニング】とか」

 【エア・コンディショニング】とは身体回りの気温・湿度を調節する魔術だ。身体にかかる水そのものを温めることはできないが、対象にとってつねに最適な温度状態を維持してくれるこの魔術がかかっていれば水に体温を奪われて寒い思いをしなくてすむ。 
 
「なるほど、おまえ機転が利くな。もう少し時間がかかりそうだし、私はさっきの滝壺で水浴びしてくるよ」
「気をつけろよ」
「そのことだが」
「うん?」
「おまえのことは信用している。だが、念のため【デッド・ライン】を張り巡らせておくから近寄るなよ」
「まったく、ぜんぜん、これっぽっちも信用してねえじゃねえか!」

 操死【デッド・ライン】。線状結界の魔術罠。それは生と死を別つ境界。不用意に足を踏み入れば、即座にデス・スペルが発動し、侵入者を死に至らしめる。


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