辺境異聞 1
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路上の水溜まりや浅瀬や小川で溺死した者は、この狂えるウンディーネの被害に遭ったと言われ、ルヴァフォースの人々に恐れられていた。
「逃げるぞ、こいつらは水のある場所から遠くには――」
「《失せろ》」
灼熱の業火が真紅の海嘯と化して狂えるウンディーネを押し潰す。超高熱に焼かれ、ひと滴の染みさえ残さず蒸発した。
黒魔【インフェルノ・フレア】の火力は凄まじく、狂えるウンディーネどころか井戸を跡形もなく吹き飛ばし、聖堂の一部と周囲の木々を消し炭に変えた。
井戸のあった場所にはクレーターが生じ、高熱で溶けた土石が急速に冷えガラス状に変異しつつある。
「たおしたぞ、だがこれじゃあ井戸が使えないな。もう一発ぶちかまして大穴を開けるか」
「このアホーっ!」
「なんだいきなり」
「まわりを見ろ、まわりを! 地形が変わっているぞ。井戸や建物はともかく、森を焼くとはなにごとだ。自然破壊もたいがいにしろ!」
「なんだおまえ、自然崇拝者(ドルイド)か?」
「だれが九階から出てくる壁を壊す青い呪文を使う魔法使いだ!」
「またわけのわからないことを……」
「やりすぎだと言っているんだ。あんたの実力ならもっと穏やかに対応できただろうに、むやみに破壊するな」
「男の癖にこまかいこと言うじゃないよ。それより井戸は、水はどうするんだ?」
「たった今あんたが壊しただろうが! 掘り起こすなよ、山ごと吹き飛ばしそうだ。……ちょっとまて、偵察がてら探してみる――《闇夜に舞い・羽撃け・御先の大鴉》」
【コール・ファミリア】で召喚したカラスで空からあたりを見回すと、山の裏側に小さな滝があり、滝壺からのびた川の先には田園地帯が広がっていた。ぽつぽつと建物も見え、人がいそうだ。
水を確保したいことだし、とりあえず滝にむかってみた。
「あ、あれ」
セリカが木の上を指さす。その細い指の指し示す先には紫色の果物がたわわに実っていた。
「アケビか」
「あれ食べたい」
「朝の食事は、あれでいいかな。落とすから下で取ってくれ」
落ちている石を拾い上げ、樹上にむけて投げると、拳大の果実がぽとりと落ちた。
「アケビ……」
「どこからどう見てもアケビだな。…… ドラゴンとかキマイラとかがいる世界なら、べつにアケビがあってもおかしくないよな。俺のいた世界のアケビとはちがう、この世界独自に進化したアケビがいるということにすればいいんだから。 日本原産種であるアケビがルヴァフォースにあってもおかしくない!」
「だれにむかってなんの力説をしているんだか。……なぁ、アケビの形って」
「うん?」
「アケビの形って、なんかエロくないか?」
「エロくねえよバカ女。いいからだまってお食べなさい」
やがて間近から川のせせらぎが聞
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