辺境異聞 1
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「……なんかものすご〜い嫌な例えをされた気がするぞ。訂正しろ」
「うちの十二神将みたいなものか」
「うん、だいぶマシになった気がする。……言っておくが給料泥棒に甘んじているわけでもないからな、学院の地下で得た情報や物を提供することで、給料分以上の貢献をしているつもりだよ」
「地下迷宮か、そういえば、そんなのもあったな」
アルザーノ帝国魔術学院の地下には広大無辺な古代遺跡が存在する。
「地下に向かってのびる塔」のような構造をしており、探索危険度はS++。帝国最高難度を誇る迷宮で、地下九階までは学生実習などでも使用しているが、地下一〇階を境に危険度が激増する。四九階までは「愚者の試練」とも呼ばれ、内部の構造が定期的に変化しているために転移魔方陣の設置や地図が意味をなさないのだ。
「身近な場所にダンジョンがあるだなんて、東のミカド国のナラクみたいだ。学院の地下にある、入るたびに構造が変わるとか、月光舘学園のタルタロスみたいで今から潜るのが楽しみだな」
「迷宮探索志望者か、おまえが正式に学院に通うようになれば許可もおりるだろうよ。それよりものどが渇いた、水」
「さっき井戸があっただろう」
「ずっと使っていない井戸だぞ、汚いじゃないか」
「井戸というのは単体で存在する水溜りではなく、帯水層や地下水脈の一部だ。使わないからといって澱んだりはしない。もっともあまりにも長いこと使わない、人が手を入れないと表面に土砂や枯れ葉がたまったり帯水層が痩せて水が汲めなくなることがあるが」
「そういうのを汚いと言うんだ、そう言うのを」
「まあ、試しに汲んでみよう」
聖堂裏にあった井戸に近づくと、秋芳が異変を察した。
「まて」
「なんだ」
「五気の偏向――ではなくて精霊力の均衡がくずれている。あんたの言うとおりだ、あの井戸の水は穢れて、よくないものになっている」
「狂えるウンディーネでもひそんでいるのか?」
「そんなところだ、近づかないほうがいい」
「そんな危険なやつ、ほうってはおけないな」
「あ、おいっ」
秋芳の言葉を無視して足を進めるセリカ。
すると井戸の中から黒くにごった水が噴水のように吹き出し、人の形をとった。
「キャハハハハハッ!」
泥にまみれた裸の少女が哄笑をあげる。
本来ならば清らかな水で肉体を形作った、全裸の美しい女性の姿をしているウンディーネの見る影もない。
「ううむ、長いこと祀られることのなかった井戸神が祟りをなすことがあるが、これもそのようなものか」
「溺れちゃえ☆ 沈んじゃえ☆」
汚泥まみれのウンディーネがその身を濁流に変えて押し寄せる。狂気に囚われた彼女たちは陸上生物の鼻や口に浸入し、肺を満たして水死させることを喜びとする。
くるぶしにも満たない
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