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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 8
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とは人聞きの悪い! 連中は自分の意志で契約書にサインしたのです」
「読み書きも満足にできない子たちを言葉巧みにだまして、乗船名簿だとか言って名前だけ書かせたんでしょ」

 事実、そのとおりだった。
 万を超す少年少女が聖地へと目指し、神の奇跡の前に海は裂け、道が開けるだろう。そう信じて最寄りの港まで行進を続けたものの当然奇跡など起こらず海は割れたりしなかった。この段階で多くの少年少女たちは失望し、故郷に帰っていく者も大勢いたのだが、それでも数百人の子らはあきらめきれずに奇跡が起こるのをその場で待っていた。
 そこに数人の船乗りが現れて彼らにこう言った。

「君たちを聖地まで送ってあげよう。なぁに、心配はいらないよ。船賃はいらないさ。ただこの名簿にサインだけはしてこくれ。規則なんでね、船に乗る者はみんな自分の名前を記帳しなくちゃならんのさ。字が書けないって? なら代筆してあげよう」

 願ってもないこのもうし出を子どもたちはよろこんで受け入れた。しかし船が着いたのは聖地エルサレムではなく、ジェノヴァ。この地でより大きな奴隷船に乗せられて、北アフリカで異教徒の奴隷として働かされそうになったのだ。
 後世の黒人奴隷船――男女別に分けられてふたりずつに手枷と足枷をかけられ、船倉に詰め込まれ、奴隷ひとりに許された空間は寝返りすら打てないほどひどいものであり、衰弱した者は容赦なく海に棄てられ、サメの餌となる。棺桶の中のほうがまだ快適な空間であった――にくらべれば多少はマシだが、それに近いような奴隷船に移されて売り飛ばされる寸前で少年たちは異常に気づいて異を唱えたのだが、時すでに遅し。
 明日にも異境の地にむけて奴隷船が出港するタイミングで、その女が現れた。
 ロッティが今まで目にしたことのない、奇妙ないでたちをした女だ。女といってもまだ若く、少女と呼んでよい年齢に見えた。
 亜麻色の髪に紫水晶のような瞳。奇妙ではあるが清潔感のある服装。片刃のグレートソードとグレイブを手にしたふたりの護衛をつき従えているところを見ると卑賎の身とは思えない。どこか外国からの貴顕の類ではとロッティは考えた。
 ジェノヴァは貿易都市だ。遠く海外からの異邦人もよく訪れる。
 世間知らずのお嬢様が奴隷にされた者たちの存在をいずこかで耳にして、哀れに思い、お慈悲をかけようなどと思いついたにちがいない。
 そのお嬢様、こともあろうにせっかく手に入れた若い奴隷たちを解放せよなどと言ってくる。冗談ではない。見映えの良い者は娼婦として富裕層に高く売れるし、そうでない者も労働力として価値がある。たとえひとりでも無料で解放するつもりなぞない。

「このロッティ、そのような詐欺などしません。それに万が一そのようなことをしていたとしても、契約は契約。奴隷たちを解放する義理も義務
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