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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 8
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「砂糖だ。葡萄酒や茶にでも入れて飲んでみるか?」

 声にならないどよめきが兇族たちの間に漏れる。砂糖も胡椒とおなじくらい貴重な品で、薬としても珍重されていた時代だ。

「さぁ、剣呑な物はしまってくれ。……これだけあれば危険な盗人稼業なんかともおさらばできる、俺たちと仲良くして損はないと思うがな」
「う、うむ」

 頭目が剣を収めると、他の者たちもそれにならった。

「話のわかる人たちで良かったわ。さぁ、お近づきのしるしにお酒でもどうぞ」

 どこからともかく使用人たちがあらわれ、酒と料理を運んでくる。ついさきほど念入りに探したときには人っ子ひとりいなかったにもかかわらず、いったいこの者たちはどこからわいて出たのか。なぜ似たような顔をしているのか。
 だがそんな当然の疑問も男たちの頭には浮かばなかった。黄金の魔力に魅せられ、心が蕩けてしまい、正常な思考ができなくなっているのだ。

「Buono! これはなんという料理だ!?」
「それは豚肉と野菜を細切りにして炒めて卵焼きを帽子みたいにかぶせてあるの。こっちのパンにくるんで食べてみて」
「こっちのなんだかふわふわした泡みたいのはなんだ?」
富貴金絲盞(ふうききんしさん)。卵の白身にチョウザメと牛肉の細切りを入れて型に入れて蒸してある。新鮮な野菜と一緒に食べるんだ」
「Buono! Buono! この綺麗なやつはなんだ?」
「それは白身魚を丸揚げにして果物のソースをかけてあるのよ。果物は一〇種類ぐらいで、熱帯のものが中心ね」
「Meraviglioso……、Fantastico……!」

 見たこともない金銀財宝と香辛料をふんだんにもちいた美味菜肴の山。物欲と食欲を満たされすっかり籠絡されてしまった。

「……これらはちょっとしたみかじめ料だと思ってください。夜の街は治安が悪いですからあなたたちのような人と交際ができれば安心です」
「う、うむ」
「特別に便宜を図って欲しいのですが」
「それは我らの一存では、な……」

 兇族たちはおたがいの顔を見合って口ごもる。言うべきか言うまいか、この貴顕の男女の命を奪うかどうか、決めかねている。

「あなたたちに命を下している人がおいでですか? それはどのような方です」
「それは――」

 頭目がみなを代表して言いかけたとき、その表情が苦悶に歪み、吠えるような叫びをあげた。その開いた口からなにか赤黒いかたまりが飛び出して、宙に孤を描いて壁に叩きつけられる。黄金の壁を赤黒く染めたそれは頭目の心臓であった。いや、心臓だけではない。胃や肺といった臓腑が頭目の口から吐き出され、あたりはたちまち生臭い臭気に満ちた。
 満ちたのは血と内臓の臭いだけではない、瘴気もだ。
 霊災である。

「VURUGALA
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