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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 8
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は足がつきにくい。
 まず使用人たちの眠っているであろう部屋をおそった。少し前まで館に勤めていたロッティの家人から館の見取り図を入手しており、迷いはしない。

「さわぐな、声を出せば殺すぞ!」

 ひとりひとり縛りあげたり殺害したりはしない。そのようなことに時間を割かず、足の腱を切り逃亡をふせぐという効果的で非情な手口。それがいつものやりかただった。

「……なんだ!?」

 恫喝の声と凶刃とを高々とあげた男は困惑した。人の気配がまったくしないのだ。

「逃げたか?」
「そんなバカな」
「おまえとおまえは入り口を見張れ」
「どこかに人が隠れていやがるぞ、探し出せ」
「それ以外の者は金目の物を探せ!」

 頭目と思われる男の指示に賊たちは左右に散った。寝台の下、引き出しの中、中庭、ベランダ……。
 兇族のひとりが裏庭にある離れ小屋から光が漏れているのを見つけ、頭目に報告する。

「よし、周りを囲め。中のやつをひとりも逃がすなよ」

 包囲をせばめ、中の様子をのぞき見た頭目が驚愕に目を見開く。
 床、壁、天井、すべてが黄金に輝いている。

「こ、これは……」

 黄金に魅入られ、中へと入る。
 室内には無数の燭台が照り輝き、真昼のように燦々としていた。そのうちのひとつを手に取って見ればダイヤモンドが装飾にほどこされていた。
 黄金製の燭台ひとつでもかなりの値打ちだが、さらにダイヤモンドまで装飾されているとなれば、その価値は莫大なものになる。
 テーブルの上に置かれた金の水差しや壺といった調度品にもルビー、サファイア、エメラルド、オパール、トパーズなどの宝石が惜しげもなく使われていた。
 ジェノヴァのいかなる王侯貴族や豪商司祭も、ここまでの富は持ち合わせていないだろう。

「Fantatico!」
「Viva!」

 兇族たちは狂喜の声をあげて手当たり次第に宝物をかき集める。それなりにとれていた統制など雲散霧消し、獲物に群がる盗賊そのものと化した。

「お気に召して? 好きな物を好きなだけ持って行ってもいいわよ」

 いつの間にか館の住人である京子と秋芳の姿がそこにあった。財宝に心をうばわれていた兇族たちはふた呼吸ほど反応が遅れてしまう。
 白刃を抜いて切り掛かろうとする気勢を制して声をかける。

「ここにあるのはあたしたちの持っている財産のほんの一部。ジェノヴァでの遊ぶお金にすぎないわ。ゴールドやジュエリー以外にもこういうのもあるわよ」

 京子が手にした銀製のグレイビーボートを卓上にある皿にかたむけると、そこから黒褐色の粒が流れ落ちた。
 胡椒だ。

「甘いのもあるぞ」

 秋芳も手にした袋を逆さにする。そこからは真っ白い砂のようなものがさらさらと流れ落ちる。

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