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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 7
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早く来てくださいッス」
こうして手強い敵を三人、戦場からいっきに消した秋芳だったが、その表情がゆるむことはなかった。
「……隠れているやつ、出てこい。
針対性
(
ピンポイント
)
で狙い撃ちするのは無理でも火界咒でこのあたり一帯を無差別に焼き尽くす程度はできるぞ」
独鈷印を結び呪力を練る。
「おっと、ばれていたのかい」
返事があった。
だが姿は見えない。
右か、左か、前か、後ろか、はたまた上か下か。
どこからともかく声がしたが、妙にくぐもり、反響しているそれからは声の主の居場所を特定できない。
「声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のような」
「……そう言われたのは二度目だよ。流行っているのかい? その
成句
(
フレーズ
)
」
「???(カーン)!」
「?(バ)!」
秋芳が不動明王の種字真言を口にすると、独鈷印より火焔が渦を巻いて周囲をなぎ払う。
それに対して見えざる者は水天の種字真言を唱え、水剋火。水で火を制しようとしたのだが――。
「以土行為石嵐、砕。疾く!」
土行を以て石の嵐と為す、砕け。
秋芳は種字真言を口にすると同時に土行符も打っていた。
最初に火界咒云々と言ったのはひっかけだ。
こちらが火術をもちいると思い込ませ、本命の土術を展開した。
火生土。
火気はあくまで土気を強化するための触媒。火気からなる呪術は土気によって相生され、威力を増加。無数の石弾が地面から放たれ、周囲を飛び交った。
土剋水。
水の術は土の術に対して完全に不利であり、打ち消された。これは急所に不意打ちを受けたにひとしい。秋芳の術が見えざる者を打ちのめした。
「……やるねぇ、宋人」
なにもない空間からにじみ出るようにして人が現れた。穏形が解けてしまったのだ。
褐色の肌に漆黒の髪をし、薄絹の服を着て、金銀宝石の装飾品を身につけた
藩王
(
マハラジャ
)
のような身なりの青年。
智羅永寿だ。
「いまのはかなり痛かったよ」
そう口にする智羅永寿の全身には打撲傷があり、その言葉にうそはなさそうだ。
「タフなやつだ。挽き肉になってもおかしくないくらいの威力を込めたんだがな」
「おっかないねぇ、きみは加減てものを知らないのかい?」
「あんたは動揺してないみたいだな」
「うん?」
「いまさっきモンゴル軍を蹴散らした呪術さ」
精確な位置を把握することはできずとも、治羅永寿が穏形していたことは察していた。愛染明王の敬愛法を発動したさい、その効果範囲にいたはずだが、その影響はまったく感じさせない。心に生じたおどろきやおびえで呪にかかる隙を作ってしまった包道乙たちとはちがい、大惨事を前にしてもいっさいの動揺もないことで、秋芳の呪に万全の状態で抵抗したのだ。
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