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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 7
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首と足首に蛇を巻きつけ、灼熱の炎に身をつつんでいた。

「軍荼利明王……」

 密教の知識のあるだれかだろう、かすれたような声がどこからかつぶやかれた。
 顕現したのは軍荼利明王だけではない。
 東方に三面八臂の降三世明王。
 西方に水牛に乗った六面六臂六足の大威徳明王。
 北方に三面五眼の金剛夜叉明王。
 そして中央、本陣の真上には倶利伽羅の剣と羂索を手にした不動明王。
 五大明王が集結した。

 将軍から兵卒まで、突如出現した明王の姿を呆然と仰ぎ見ている。あまりの異様な光景は恐怖ではなく放心をもたらした。
 そのとき、であった。
 巨大な地鳴りの音がして地面が激しく揺れはじめた。
 地震だ。
 立つことすらできない大きな揺れにはじめて恐怖心がわき起こる。
 悲鳴を上げて地面に伏せる兵たち。

「落ちつけっ、ここには倒れるような建物はない。情けない声を出すな!」
 そう叫ぶ羅延将軍もまともに立ってはおれず、地面に腰を下ろして揺れに耐えている。
 
 バリバリバリッ!

 雷鳴が轟いた。
 否、地割れだ。
 大地に開いた巨大な(あぎと)に数十人の兵士が飲み込まれていく。
 長く続いていた揺れがようやくおさまった。地震が起きていた時間は三分ほどであったが、感覚的には一夜にひとしかった。
 だが元の兵たちに安堵はおとずれない。揺れがようやく終わったと思った瞬間、こんどは横殴りの暴風が吹いて地面に叩きつけ、宙に吹き上げた。
 服がはためき、髪の毛がすべて持っていかれるほどの突風。人も物も、地にあるものが暴風に翻弄され木の葉のように吹き飛ばされる。
 雷電を帯びた大小無数の竜巻が発生し、陣営をずたずたに引き裂いていく。
 竜巻はゆらめきながら砂も石も飲み込んだものはすべて上空へと運び上げ、移動する。
 そのとおり道にある天幕や投石器は残らず破壊された。丸太を砕き、それさえも上空へ運んでいく。
人も例外ではない。地面に伏せていた兵士たちの何十人かはひときわ勢いの強い竜巻に飲み込まれて空へと姿を消した。
 彼らは巨大な石臼の中に叩き込まれたも同然だった。幾百、幾千、幾万の肉片に引きちぎられ、血肉の雨を降らすことだろう。
 天幕も櫓もすべて飲み込み、倒壊させ、竜巻は突然、消えた。巻き上げられた物が地面に落ちてくるかと思ったが、そんなことはなかった。
 どこか遠くの空へ、一瞬にして運ばれたのだ。
 そこでは土や石、丸太の破片、そして人馬の血肉が雨となって振ることだろう。

「…………」

 風が止まっても元兵たちは立ち上がることはおろか、声を出す気力すらなかった。

「あ、あ、あ、ああ……ッ!」
 兵のひとりが震える手で指差す北側から万里の長城のように水がそそり立っていた。嵐のさなかの
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