飛頭蛮
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無理に声を張っているのが、透けて見えるようだ。もうこれ以上、草間の事を話題にあげるのはやめておこう。
「人の顔がさ、お面に視えてたんだよ」
「急だし何云ってんのか分からねぇよ。そういうとこだぞ、いつも主語がないと云われるのは」
「あぁ、悪い。…共感覚の話。人の気持ちを音で感じて、それが視覚と一緒になって…っての。俺さ、人は皆、お面を被って生きてるように視えてたんだ」
「お面?」
「うん。表面に視えてる顔の後ろ側に、本当の顔があるの。俺にはそう視えるの」
表面の顔は笑ってても裏側の顔は激怒してる人とか、仲良しそうにしてる二人が心の中でめっちゃ睨み合ってたりとか。そう云って今泉は、少し寂しそうな顔をした。
「でもそれって、知っちゃいけないことらしいんだよ。俺が視えてる通りのことを親に云ったらさ、それまで見た事ないようなすごい顔で怒られて、でも裏側の顔はすごく怯えてて。お前は嘘つきだ、嘘つきだって云われて。俺怖くて、泣いちゃった」
「そんな事が」
「だから俺、ずっと誰にも云わないでいたんだ。嘘つきって云われるのが怖くて」
俺には何も云えなかった。俺の家は玉群との付き合いが深いこともあり、俺の『視える』性質は割と鷹揚に受け入れられている。そういう土壌がなかった今泉は、どんな不安な思いで自分の共感覚と向き合って来たことだろう。
「だから共感覚なんていう言葉も知らなくて、だから俺…今日、すげぇホッとしてるの。俺と同じ感覚の持ち主、他にもいるんだって分かったし、俺は嘘つきでも狂ってもいないんだって」
今泉の声に明るさが戻って来た。俺だって心底、ホッとしていた。
「…青島って、変わってるんだよな」
「なんだよ唐突だしお前に云われたくないし」
「お前も表面と本心が随分違うんだけどさ…」
お前って、自分の為には仮面を使わないんだよ。そう云って今泉は笑った。
「誰かを心配させないように、とか誰かを元気づける為に、とかで自分の不安とか、ムッとした気持ちとかを隠すんだよ。誰かを陥れたり、自分が得したりする為じゃなく。だから好きなんだ」
聞いてて顔が赤くなるような賛辞を手前勝手にぶつけて自分は上機嫌でずんずん歩いていく。懐中電灯が追いつかず、少し小走りになって今泉の後を追った。
「玉群は…もっと変わってる」
ふっ…と今泉が真顔に戻る。
「あいつには、仮面がないんだ」
「……ない?」
「視えないんだよ、裏側の顔が。あいつの顔は常に一つなんだ」
月明かりが、冴え冴えと無人の石段を照らす。その光を吸い込むかのように石段はなお昏い。…奉に人と同じ情動が感じられないのは当然だ。神なのだから。だがその違和感を完全に見切ることが出来る今泉は、この先…うまく云えないが、
奉と同じ位相の存在に、危険視されるようなことはないだろうか?
「
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