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霊群の杜
飛頭蛮
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うに、空虚な目で正面を見据える生首が浮いていた。
奉は口元に薄い笑いを浮かべている。俺は…ただ、首を傾げていた。どうも、おかしい。俺と奉と、今泉は同じものを視ている筈だが。しかし…。
「……なぁ、今泉」
「おーう」
「全然、似てないじゃないか」
今泉が目を見開いて、振り返った。
「瓜二つ、じゃないのか…?」
「俺は『視る』質なので何となく視えるんだ。…口元は少し似てるけど、本当に少し面影がある程度だぞ。…お前、一体何を視ているんだ?」
「当然だ。今泉には本当は、何も見えちゃいないんだからねぇ」
にやり、と奉が顔を歪ませた。
「そんな…だって…確かに…」
声を強張らせて、途切れ途切れに否定する。…今まで見たことがなかった、今泉が何かを拒絶するような表情。もしかして俺は、今泉を追い詰めるようなとんでもないことをしでかしてしまったのか。…こめかみを汗が伝う。
「勘違いをするなよ。お前が嘘つきだと云っているわけじゃない。ただお前が視ている世界と、常人が視ている世界には決定的な隔たりがあるんだよ。…気が付いているんだろう?」
「俺は…嘘つきじゃない…?」
今泉は惚けたように繰り返した。
「お前みたいな感覚の持ち主を、こう云うんだ」


―――共感覚。


「きょうかんかく?」
「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。これらを五感というだろう。この五感が相互に混じり合う、特殊な感覚を持つ人間が、稀にいるんだよねぇ。そういう感覚を『共感覚』という」
奉は共感覚の説明を続ける。
数字やひらがなに色彩を感じる、音に味を感じる…人によってその感じ方は様々で、成長につれて消えてしまうこともあるのだが、大人になってもその感覚を保持し続ける例もあるらしい。…そういう感覚の持ち主が居ることは聞いていたが、まさか今泉が共感覚の持ち主だったとは…。
「お前の場合はそうだな、とても、耳がいいんだろう?音に、映像を感じるようなことはないか?」
今泉が弛緩しきった子供のような表情で頷いた。
「やはりねぇ…恐らく人の感情だとか、霊の気配なんかを周波数として無意識に感知するんだろ。意識しなくても人の感情が読めるから、怒りや不安に先回りしてほぐしてやることが出来る。だからお前の周りには人が絶えないんだろうよ」
「へへ」
「笑うな腹立つねぇ。…で、お前は霊を視覚じゃなく、聴覚で捉えている。それと音が映像になる共感覚が変に作用して、今お前が視ている飛頭蛮を生み出しているんだろう。草間とそっくりなのは、そいつが出す周波数が、草間と似ているからだ」
「じゃあ、この人は…」
「草間とごく親しい血縁者。もっと云えば、母親だろう」
それを聞いた時、俺と今泉は全てを了解した。
心を読む術などない俺にだって分かる程、草間の母親は草間の変死に納得がいっていなかった
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