飛頭蛮
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凝視する奉。この世間から隔離されたような岩の洞窟に、沈黙が降りた。…やがて奉がするりと衣擦れの音をさせて立ち上がり、窓の傍らに立った。
「―――カーテンを開く前に、ある妖の話をしようか」
『ろくろ首』と呼ばれる妖がいる。
人が寝静まった深夜、その長い首を差し伸べて…長く、長く差し伸べて、蛇のように長く伸ばす妖。本人も寝ている間にろくろ首と化す為、本人にすら自覚がないことが多い。実際、ろくろ首となっている時に見聞きした事は、本人は夢と認識しているという。
「この、日本の『ろくろ首』の元となった妖が、中国に居る。…飛頭蛮、という」
こちらは首自体が体から離れ、その首に翼が生えて飛び回る妖である。行きあった虫を食う以外、大した悪さをするわけではなく、ものの本では『そういう部族』という記述すらされている。妖、というよりある病気を持った人、という扱いだ。
「ある病気?」
「離魂病、という」
「りこんびょう?」
お前らがよく知る言葉で云えば、幽体離脱だねぇ…と、何故か妙に面映ゆそうに奉が呟いた。思いがけずスピリチュアルな単語を口にすることになって、落ち着かない気分なのだろう。
「体から魂が離れ、勝手に動き回る様を『視える人間』が飛頭蛮、もしくはろくろ首の形で伝えたのではないかねぇ…」
「俺が視てる草間に似た頭ってのも、そういう…?」
「ま、生霊の類だろうねぇ」
「生霊!?」
「ちなみに飛頭蛮にせよろくろ首にせよ、圧倒的に女が多い。草間に似た頭が女のものである、というお前の見立ては恐らく間違ってはいないねぇ…それとお前」
―――子供の頃、周りと話が合わなくて、大人に心配されなかったか…?
「………」
今泉の眉が、僅かに動いた。
「どうして、そう思ったの?」
質問には答えず、質問で返した。すぐに質問に答えないのは今泉の癖なのかもしれない。
「お前にとっては嫌な話をするかもしれないが、お前…視えるはずのないものが視えてるだろう。霊感とかじゃなく」
「……何でそれを?」
「そうなのか今泉!?」
今泉は俺の様子を伺うように盗み見て、小さくため息をついた。
「そっか、俺転校してきたから、皆知らなくて当然か。…そだよ。俺、そういうところがある」
「それに、恐ろしく耳がいい。…不幸にも」
今泉が観念したように頷いた。耳がいいのが、駄目なのか?俺にはもう、彼らの間で何が語られているのか見当もつかない。
「なぁ、奉。さっきから何を云っているんだ?」
くっくっく…と人を馬鹿にしたような笑いを漏らし、奉はカーテンを揺らした。
「―――視てみるか?お前らに、同じものが視えているのかどうか」
そしてゆっくりとカーテンを開けた。
「……あぁ…駄目だったかぁ……」
今泉の口元から、小さなため息が漏れた。
窓の向こ
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