飛頭蛮
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は好奇心に煌めく視線を上げた。ついぽろっとこぼれた折衷案だったが、丁度いい。あいつはいつも俺に面倒事を押し付けてくるのだから、今回くらい、俺が面倒事を押し付けてもいいじゃないか。
「玉群ん家ってことはあの、豪邸!?」
「いや、奉は玉群神社の裏手に一人で住んでいるんだ」
「別邸!?金持ちすげぇ!!」
すげぇ!!とガッツボーズされるような豪奢な別邸では、断じてない。
「ぶっちゃけ岩穴だよ。岩穴に電気を引いて辛うじて人が棲めるようにしつらえているだけの、本しかない空間だ」
「秘密基地か!すっげぇ楽しみ!」
今泉が小学生のような食いつき方を始めたあたりで、葬儀の参列者の一人が小さく咳払いをした。俺達は慌てて会釈をすると、小声で簡単な打ち合わせをして、各々スマホをいじりはじめた。
やがて進行担当が「棺の周りにお集まり下さい」と、献花を促し始める。今泉は草間の虚ろな骸に何かを語りかけていたが、そこに一片の魂も残っていないことを知っている俺には、何も語ることはなかった。
「相変わらずキツイ階段だなぁ」
石段を踏みしめながら今泉が呟いた。子供の頃、皆でちょいちょい境内で遊んでいたことを思い出す。その頃の今泉は意外にも、書の洞を発見していたそうだ。
「あの洞窟が、玉群の家とはねぇ…びっくりだ」
「こっちもびっくりだよ…分かりにくくなってるはずだぞ」
「んー…何かさ、『音』がしたんだよね。うまく言えないけど」
俺、なんか耳がいいんだよねー…と、今泉は首を傾げる。音?んー、音…?と、自分の言葉を何度も確かめているようだ。
「…大きい一枚岩が入口にあるだろ?でも隙間があってさ、昏くて中は見えないんだけど…俺あれ動くんじゃないかって何度も押したり引いたりバール突っ込んだりしたんだけど、子供の力じゃ全然で」
「開け方にコツがあるんだよ」
うららかな陽を浴びる本殿から、鬱蒼とした裏側に回り込む。まだ早春だというのに、この辺りは年中不自然に草深い。何年も開け慣れた洞の岩戸に手を添えて力を込めると、岩戸は轟音を立てながら横にずれた。
「ほおぉ…」
今泉が目を輝かせて洞を覗き込んだ。
「なんだこれ…本が、岩壁に貼りついてるじゃん」
奉が読み散らかした本が、岩壁に沁み込むように融け、覆っている。まるで本で出来た洞窟だ。小さい頃から通っていたのでその異様さに慣れ切っていたが、考えてみれば何と奇怪な洞窟だろうか。
「本と壁の境目が無いぞ…融合してんのか!?」
「深く追求するな。足元悪いから気を付けな」
豆電球程の微かな灯りを頼りに洞窟を進むと、古びた木製の扉。その脇に、目の隙間から赤光を放つ遮光式土器が一つ、睨みをきかせている。
「なにこれ」
「去年、境内に大量に放置されたんだ。これだけ残して他はヤフオクで売った」
「へー…売れた
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