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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 6
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芳の心中に生じた。

(ここは夢の中、仮想世界であって現実じゃない。破壊の術をいくら行使したところで実際に命を落とす人は皆無だ。だが……、ここでの体験はすなわち経験。いまさらだが、まだ若い京子にあまり刺激的なことはさせないほうがいいかもしれない。いっそ俺が単身出むいて張弘範(ちょうこうはん)李恒(りこう)を討ち取って元軍を敗走させてやるか。だが包道乙たちが邪魔だなぁ)

 これまでの呪術戦で元軍側についた呪術者の実力はだいたいわかった。注意すべきは包道乙とその弟子鄭彪、京子の式神を破った治羅永寿、最初に大雨を降らした方臘。これら四人だ。さすがに十二神将級とは言えないが、いずれも現役の祓魔官や呪捜官と同等以上の実力をそなえている。

(京子といっしょならどうにかなるが、式ならともかく生身の京子を戦陣に連れていくのはさすがにまずい)

 夢の中、仮想現実の世界だとはいえ、ここでの死は現実の死につながる。京子に危険な行為はさせられない。

(骨が折れるがやはり俺がまずこいつらをかたづけて……、張弘範を討つか)

 昏い興奮が背筋を駆け抜けてくる。身体の芯を熱く、それでいて冷たく火照らせる。剣呑な感情がこみ上がってくるのを自覚した。
 山を下りた直後の、まだ駆け出しの頃。陰陽庁に属さないもぐりの呪術者として行動していた時。他者を呪殺するさいの昂ぶり。

(……ここは現実じゃあない。『グランド・セフト・オート』や『スカイリム』でちょいとおいたをするのといっしょだ。ひさしぶりに、暴れてやるか……)

 (ビン)の焼ける良い匂いが、つづいて肉を焼いたり野菜を炒めたりする匂いも流れてきて思考を中断させた。
 餅とは小麦の粉を練って焼いたもので、パンの一種だ。葡萄酒によく合うことだろう。

「このひらべったいのはなに?」

 手にした箸で前菜に出てきた薄いせんべいのようなものをつまむ。

炸駝峰(ジャトウフォン)といって、ラクダのこぶを薄く切って油で揚げたものだよ」
「へぇ! はじめて食べるわ」

 ラクダのこぶは栄養価が高く保存も効く。
 京子がひとくちかじってみると、豚肉のから揚げによく似た。それでいてさっぱりとした肉の旨味がひろがった。
 秋芳と京子が食事をしている場所は北方や西域の料理が楽しめる菜館(レストラン)だ。
 ここの酒飯博士(シェフ)は長いあいだ元軍の虜囚になっていたという料理人で、その間に北方や西域の料理を学んだという。
 北方料理の中にはとうぜん敵であるモンゴル人たちの料理もふくまれるが、だからといって「敵国の料理が食えるか!」「せめて名称を変えろ!」などという卑小な考えの者は宋の国にはいない。
 この時代の中国にはおだやかで智勇仁義にあふれた士大夫たちがまだ多くいたのだ。
 二〇〇
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