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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
邯鄲之夢 6
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外にも守りの呪は万全だ。命中しても一度や二度くらいなら耐えられる。そうでなくては甲冑も身につけない呪術者が戦場に立つことなどない。
だが絶対に切れない命綱を巻いていたからといって高所に立つ恐怖がなくならないよう、守りを固めたからと戦場に立って平気でいられるわけではない。
肩が重い。
首をひねって見ると手が置かれていた。
手だけだ。
手首から下はなかった。
砲弾で吹き飛ばされただれかの手が、宙を飛んで偶然にも秋芳の肩に乗ったのだ。
「……ッ!」
気色の悪さにはらい落とそうとして思いとどまる。
敵か味方か、だれの手かわからないが、そっと地面に置いてやった。
「南無阿弥陀仏……。俺はとうぶん人が死ぬような創作物は見ないし読まないぞ、こんなのはまっぴらだ」
それがたとえフィクションであっても、その世界の登場人物にとってはそこが現実、そこでの死は死だ。そもそもフィクションと現実の境は曖昧であり、最初から創作とわかって映画を観たり小説を読んだりしても涙するのは、それがある種の現実だからだ。
ゲームだから漫画だからと、人の死は笑っていいものではない。軽々しくあつかっていいものではない。
「秋芳先生、ご無事でしたか!」
宋の伝令兵が駆けてきた。
「作戦は成功。元軍の先鋒を蹴散らしました! これも秋芳先生のおかげです!」
宋軍の右翼に展開していたおとり役の歩兵のほとんどは秋芳が生み出した簡易式であった。
幻術で弱々しい傷病兵を創り出せればよかったのだが、あいにくと秋芳は幻術が苦手である。
ひとりやふたりの兵士ならともかく、大勢の兵士の幻を作っても粗が目立ち、呪術者どころか一般人からも見破られかねない。
秋芳の使役式の笑狸でもいれば得意の幻術で化かしてもらったところだが、いないのであれば手持ちの札で勝負するよりほかはない。
敵が来たら逃げる。という単純きわまりない命令だったが、さすがに千に近い簡易式を一度に放つのは消耗した。
「……よろこぶのはまだ早いようです」
「なんですと?」
秋芳の見鬼が戦塵のむこうから近づきつつある霊的存在の気配を察知した。
「元軍は戦場に動的霊災、妖怪変化の類の投入してきたようです。そしてそれを使役する数多の呪術者を。生身の兵を相手にするのとは、いささか勝手がちがいますよ」
京子の儀式呪術が発動するまで、あと少しのあいだ気張る必要がある。
秋芳は全身に霊気をめぐらせ、迫りくる魔軍の群れに立ち向かった。
この世界での死は現実世界での死。
絶対に負けるわけにはいかない。
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